麗しの旦那様、私の愛は重すぎですか?
「行ってくる」
「行ってらっしゃい」
朝七時二十分、暁成が電車で三十分ほどの距離にある会社へと向かう。
始業は九時であり、出社するにはまだ早い。
暁成は出社前に、必ずお気に入りのコーヒーショップに寄り、ホットコーヒーをテイクアウトする。
他の人が出社してくる前に管理職として必須の細々としたタスクをこなすのが、独身時代からのルーティーンだ。
暁成を玄関から見送った櫻子はリビングへと戻り、朝食の後片付けを始めた。
使った皿を全て食器棚しまうと、ダイニングチェアにかけていたワイシャツをおもむろに手に取った。
捨てろと言われたが……。
「ふふっ。このワイシャツ、ずっと欲しかったの……」
捨てておいてくれと言われたワイシャツをうっとりと眺める。
櫻子はワイシャツを綺麗にたたむと、透明なジッパーバッグに丁寧にしまった。
鼻歌を歌いながら向かったのは、マンションのひとつ下のフロア。
櫻子達が住む505号室の真下の405号室だ。
櫻子はキーケースから鍵を取り出すと、部屋の中に足を踏み入れ、意気揚々とリビングの扉を開け放った。