スノードロップ
僕は独り、重たいからだを引きずるように歩く。

スマホを手に取った。

彼女と愛犬の写真をみてため息をついた。彼女の誕生日を指でなぞる。

どこかに行ってしまった彼女に電話をかけた。

「もしもし。...なによ。今忙しいんだけど。」

「なにしてるの?」

「買い物。」

奥から一瞬男の声が聞こえて、ミュートになった。

心が冷たくなって、何か穴が空いたみたいで、とんでもなく苦しかった。

息を吐きたくて仕方がなかったから、僕はスマホを放り投げた。

嘘くらいつくならちゃんとつけよ、バカだな。

...彼氏にはそれなりに寛大な心がいるのかな。

いつも言うよね、彼氏なんだから、って。

彼氏はそんなもんなんだね。

「ごめん、ちょっと周りうるさくて。うるさいの、君がいやかなって思って...。あ、周りにいるの、女だよ、安心してね。で、なに?」

言い訳がバカすぎて笑えた。

「ううん、なんでも。元気そうでよかった。帰ってこないから心配で。」

「そう。大丈夫。ありがと。心配しないで、ご飯も要らないから。」

ぶつっ、と電話は切れた。


嘘ばっか。


それでも彼女から離れられない。

僕の方は彼女の何倍もバカだからな。
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