君の記憶、僕の心。
出会い。
今年もまた、桜の季節がやって来た。

この時期になると決まって桜並木のある場所に行く。
なんで行くのか、それは簡単な理由で、ピンクのトンネルを通りながら空を見上げるのが好きだからだった。


ほんの少し暖かく感じる風が頬をなで、桜の木を揺らし、やがて空からはピンクの雨が降り出す。

その中をカップルや家族、散歩する人…色んな人が通り過ぎて行く。
そんな彼らはいったいどれだけ回りの人間に気づいているのだろうか…。

そういう自分もたいして周りを見ているわけではないのだが…。


でも、今回は違った。僕は一人の女の子に目が止まったのだ。

その子は、桜を嬉しそうに笑顔で見つめながら歩いていた。
時折流れる優しい風が長い髪と桜を一緒にゆらす。その姿がもう綺麗で僕にはまぶしかった。


いつしか僕は、足を止めてその子を見ていた。
僕とその子は並木道の端と端にいて、その間を人々が通り過ぎていくのに、そんな事も気にならなかった。

彼女と桜、それ以外は目に入っていなかったから…。

その時、強い風がびゅうっと吹き、地面に散った桜を巻き上げ、僕の視界を奪った。

次の瞬間、目を彼女の方に戻してみると、ハラハラと散る桜越しに彼女と目があった。

きっとそれは数秒か数分の間だったと思う、でも僕には、それが永遠にさえ思えた。

そんな事を思っていた僕のすぐ目の前を、カップルがとおり、現実へと引きもどされた。
その状況に照れた僕は赤面した顔を誰にも悟られないように、背にしていた桜の木へと体を向けた。

『あぁ、なにやってんだろ。目があったって事はバレてたって事じゃん…。変な人だと思われただろうな』「てか、変態とか思われたかも?」

「あなた、変態さんなの?」

「へぇ!?」

掛けられた声に驚いて振り返ると、そこには桜並木の反対側にいたはずの彼女が立っていた。
軽くパニックを起こしつつあった僕に、彼女は続けた。

「私、ここ初めてきたの。綺麗な所だね。あなたは?初めて?」

「…いや、毎年この時期はここにくるんだ」

「へぇ、そうなんだ」

彼女は優しく僕に微笑むと、僕の後ろにある桜の木を見上げた。僕はその姿に少し見とれそうになったけど、彼女の隣に並び一緒に桜を見上げた。
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