奪われた令嬢は、蒼穹の騎士に焦愛される――本当の奥様は、貴女じゃなくてわたしです!?――

第12話 愛されたいと願わなければ2

「待ってくれ――!」





 背後から、青年の声が聴こえる。



「どこにいくつもりなんだ――」



 現れたのは――鳶色の髪に、水色の瞳を持った綺麗な顔立ちの青年――アイゼン様だった。





「行かないでくれ、ルビー! 君がいないと……! お願いだから、そばにいてくれ!」





 馬から降りた彼は、わたしに向かって駆けてくる。





「ルビー!」





 気づけば、彼の腕の中に閉じ込められていた。

 彼の必死な叫びに、わたしの決死の決意が揺らぎかける。





「私のそばから離れないでくれ、頼む――!」





(本当は、わたしもアイゼン様のそばにいたい)



 だけど――。



 唇をきゅっと噛み締め、彼の瞳を見て伝える。



「……あなたが他の女性に優しくしている姿を見るのはつらいのです。だけど、愛妾にはなりたくありません。もちろん、奥様を――誰かを裏切るような真似もしたくはありません。貴方様のおかげで、身は売らずとも生計は立てて行けそうです。だから――」





「ルヴィニは兄が決めた相手だ――俺は、君のことを――」





 はっとして、わたしは叫んだ。





「ダメです! それ以上は!」





 彼の腕の中から、身体をよじって逃げ出す。

 

 そうして、彼の水色の瞳を見据えて、きっぱりと告げた。





「――愛するお兄様の命に従うと決めたのも、アイゼン様でしょう?」





 予想外の問いかけだったのか、彼の水色の瞳が揺れる。



「お父様のように何人も女性をそばにおくのではなく、一人の女性と添い遂げるのが夢なのでしょう? 自分と同じようなつらい目に、子どもを合わせたくないのでしょう?」



「そうだ、だけど……でも、俺が相思相愛になりたいのは――それに、俺は――」





 何か言いかけたアイゼン様の言葉を遮り、わたしは続けた。





「わたしの好きになったアイゼン様は、お一人の女性だけを愛するお人です。さようなら、幸せになられてください――」





 馬で追いかけてこれないように、わたしは森の中へと駆け行った。





「待ってくれ! ルビー! 話を聞いてくれ! 夜の森の中は危険だ!」





 想い人の制止を振りきり、わたしは振り返らずに前へと進んだのだった――。







※※※







 森の中を進んでいると、少しだけ道に迷ってしまった。

 

(森をくだれば街道に出れると思ったのに……)



 考えが甘く、崖に出てしまった――。





(――引き返さなきゃ――)





 その時、後ろからかさかさと草をかきわける音がする。



(まさかアイゼン様……まだ追いかけてきているというの――?)



 これ以上引き止められれば、今度こそ決意が揺らいでしまう。



 そう、どうしても――。







(愛されたいと願ってしまう――)







「アイゼン様、もうこれ以上話すことは――」



 振り返る。



 そこに立っていたのは――。





「見つけた――わたくしの幸せを脅かす女――」





 アイゼンの妻、ルヴィニ夫人だったのだ――。





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