奪われた令嬢は、蒼穹の騎士に焦愛される――本当の奥様は、貴女じゃなくてわたしです!?――
第16話 真実
「入れ、替え――?」
驚くわたしに向かって、メーロ侯爵は優し気な微笑みを浮かべてくる。
「そうだよ、本物のルヴィニ。お前の偽の両親は、元はわしの屋敷の使用人だったんだ。彼らは賊の一味で、お前の乗った馬車を襲わせたのも自作自演だったようだ」
両親が実の両親じゃなかったと聞いて、ショックは大きった。
だけど、だからこそ、わたしのことをこき使っていたのかと、納得できる面もありはする。
(お父さん、お母さん……そんな……)
「そうして、その襲撃に乗じて、自分たちの娘と入れ替えたのだよ。整形させた娘を、侯爵家――わしの屋敷に忍ばせ、金品・宝飾品の類を横流しさせていたんだ――」
ちらりとルヴィニ夫人の顔を見ると、顔面蒼白になっていた。
アイゼンが続ける。
「君の成人の日に、村が焼けた事件があっただろう? あれも君のご両親の仲間の賊たちが、身元がばれるのを恐れて、蛮族を村に引き入れたらしんだ。定期的にそういうことをおこなって、根城を変えているらしい」
そうして、彼は柔らかい笑みを、わたしに向かって浮かべてきた。
「ルビーの偽の両親も。まだ別の場所で生きている。彼らは、ルビーとルヴィニを入れ替えていたことを自供してくれたよ――あとは、ルビーの誕生日に、君の実の母親の形見であるブローチ――彼らが屋敷から盗んだものらしいんだけど――それを手渡したのはね……」
わたしの喉がこくりと鳴った。
「ずっと君と一緒に過ごしてきて、馬車馬のように働かせても文句も言わずに尽くしてくるルビーに、だんだん彼らも愛着がわいていったらしいんだ――でも本当のことを言うわけにもいかない。だから、村を焼いたついでに、君にブローチを渡して逃がしたそうだ」
(お父さん、お母さん……)
じわりと涙がにじんで、アイゼン様の姿も一緒にぼやける。
「まあ、蛮族に君が襲われてしまったり、私に君が拾われるのは想定外だったそうだけどね。彼らは罪をつぐなったら、またルビーに会いたいと話していたよ」
わたしの瞳から涙がぽろぽろとこぼれた。
そうして、彼は声を張り上げた――。
「都にいる頃からの数々の横領罪に――我が妻ルヴィニ・メーロへの殺人未遂の現行犯だ――逃げ場はないよ、ルヴィニを騙る女――」
そう告げるアイゼンは、どことなく嬉しそうに見えたのは気のせいだろうか――。
ルヴィニ夫人は口惜しそうに顔を歪める。
「くそっ! こうなったら――!」
彼女は、近づく騎士をすり抜け、崖にいるルビーと侯爵の元に向かって駆け始めた。
「どちらか道連れに、一緒に死んでやる――!」
「――ルヴィニ!」
メーロ侯爵がルビーを強く抱きしめる。
鬼のような表情をしたルヴィニは――。
だが、そこで倒れ伏した――。
「ぐうっ――!」
彼女のスカートに刺さるのは、一本の矢――。
「ああ、悪いね、手が滑った。これでチェックメイトかな?」
冴え冴えとして月の下で――。
騎士に手渡されたクロスボウを片手に、鳶色の髪をした青年が、凄艶な笑みを浮かべていた。
「君に脅されて、命を落とした使用人たちも多いという。ご両親と一緒に罪をつぐなっておいで。偽物のルヴィニ――」
いつもの優しくて潔癖で、少しだけ優柔不断で、兄がいないと決めきれないような、そんなアイゼン様の姿はそこにはなかった。
そうしてこちらに向かって近づいてきた彼は、横向きにしたわたしの身体を抱きかかえる。
「きゃっ――」
端正な頬を、彼は私の頬にすり寄せてくる。
「さあ、城に帰ろう、ルビー」
「アイゼン様……わたしは……」
たじろぐわたしに向かって、彼は柔和な笑顔を浮かべてこう告げてきた。
「もう何も、私たちを邪魔するものはいない。今夜は離さないよ。私の本当の花嫁――」
すると――。
メーロ侯爵も近くにいると言うのに、彼はそっと口づけてきた。
(あ――)
唇が少しだけ触れた後に離れる。
そうして見上げた彼の顔――。
月の光に照らされた彼の水色の瞳は――。
まるで――蒼穹のように輝いていたのだった――。