奪われた令嬢は、蒼穹の騎士に焦愛される――本当の奥様は、貴女じゃなくてわたしです!?――

第20話 夫の様子が……

 太陽が中天を差す頃、庭で洗濯物を干していた時の出来事――。



 色とりどりの花々が輝き、むせ返る土の香りが鼻腔をくすぐる。



 わたしが本当のルヴィニ・メーロ侯爵令嬢だと判明した後、使用人仲間たちがこぞって謝罪に現れた。



「本当にごめんねルビー、ルヴィニ夫人に脅されてたせいで、あんたをかばってやれなくて……!」



「ごめんね、ルビー」



 職を失うと行くあてもない使用人だって多い。



「仕方ないわ、これからも皆で仲良くしましょう」 



 わたしが笑うと、皆もすごく幸せそうに笑ってくれた。



「あんた、本当は侯爵令嬢なんだろう? もう気軽にルビーなんて呼べないね」



「今まで通り、接してほしいな」



 そういうと、同い年ぐらいのメイドが幸せそうに笑った。

 メイド仲間の一人が「そういえば――!」と言って、話を切り出す。



「ルビーに気のある庭師がいたんだけど、あんたがアイゼン様の本当の奥さんだって言ったら、大層へこんでて――」





「――誰が、私の妻に気があるんだい?」





 背後から、爽やかな青年の声が聞こえた。

 洗濯物の陰から、青年の姿が現れる。



「アイゼン様――!」 



 メイド仲間たちが一斉に色めき立つ。

 鳶色の髪に水色の瞳をした美丈夫は、脇目も振らずに、わたしの元へと歩み寄ってきた。

 わたしの足元に跪いたアイゼン様は、さっと私の右手をとると、ちゅっと口づけを落とす。



「ルビー、会いたかった――僕の最愛の妻」



 メイド達がますます、きゃあきゃあと興奮して落ち着かなくなる。 

 そんな彼女達に向かって、彼は問いかけた。



「ねえ、皆、教えてほしい。ルビーのことを好きな男の人がいるのかな?」



 穏やな口調だが、彼の目は笑っていなかった。

 彼女たちは首をぶんぶんと振ると、一斉にどこかに去って行ったのだった。  



「どうして皆教えてくれなかったんだろうか――?」 



 困ったように言う彼を、わたしはこれまた困ったような調子で見る。



(無意識?)



 自覚がないのは大変だなと、そんなことをわたしはぼんやりと思った。



「ルビー」



 部屋にもどると、彼はわたしの身体をぎゅっと抱きしめてきた。



「あ、アイゼン様――?」



 かと思うと、唇の中に舌をねじこまれた。

 いつも几帳面な上に丁寧な彼にしては、性急な動作だったため戸惑ってしまう。

 舌が彼のそれに翻弄されていく。

 甘い痺れを感じながらも、いつもと違う彼の様子に、わたしは戸惑ってしまった。
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