奪われた令嬢は、蒼穹の騎士に焦愛される――本当の奥様は、貴女じゃなくてわたしです!?――
第9話 メーロ侯爵
そんなある日――。
ルヴィニ夫人の父親であるメーロ侯爵が、アイゼン様の城に訪ねてこられた。
今は亡き最愛の妻との間に出来たルヴィニ夫人のことを、彼は大層可愛がっているそうだ。しかも、なかなか子どもを授かれなかった中に出来たのだというので、目に入れても痛くないほどの可愛がり具合だそうだ。
「ルビー、大変だよ。侯爵様が『盗みを働くあげく、娘に嫌がらせしている女を出せ』と怒っているらしいんだ」
女主人に言われたわたしは、侯爵のいる客間へと向かった。
客間の扉を開くと、ルヴィニ夫人とともに一人の老人が立っている。
(あのご老人が、メーロ侯爵……)
メーロ侯爵は、茶色の髪に、少しだけ赤い茶色の瞳の持ち主だった。どことなくぼんやりした色合いをしたルヴィニ夫人に比べて、くっきりとした色彩の老人である。
(どうしてだろう、どこかで見たことがある気がする……)
漠然とそんなことを考えてしまった。
貴族の男性と、一介の村人である自分が知り合いのはずはないのに――。
わたしに気づいたルヴィニ夫人が、メーロ侯爵に声をかけながら、わたしの方を指さしてきた。
「お父様! この女ですわ!」
今から糾弾されるのだと思うと、身がすくむ。顔をあげることができず、俯いたまま部屋の中に入った。
娘であるルヴィニ夫人と一緒にいる侯爵へ声をかけ、わたしは深々と謝罪する。
「お初にお目にかかります、メーロ侯爵、ルヴィニ夫人に誤解を招くような行動をとってしまい、大変申し訳ございませんでした」
「貴様か――! わしの大事な娘をないがしろにする悪女と言うのは!」
話し合う間もなく、突然――。
わなわなと震えるメーロ侯爵が、手に持ったステッキを振り上げてきた――!