キミの裏アカ全部知ってるよ
「キミの裏アカ全部知ってるよ」

昼休みに教室で休憩中の彼を校舎裏へ連れ出し、そう告げた。

沈黙の時が流れ、風の吹く音だけが私たちを掠めた。風で少し乱れた前髪を直そうとした瞬間、

「何のこと?」

明らかに動揺している素振りだが、それを隠そうとしているのかぎこちない笑顔で私に聞いてくる。

だから私はとびっきりの笑顔で
「んーー、自分で撮った風景とかの写真上げてるやつと、ちょっと痛いポエム自撮りのやつでしょ?」

「おっほぅ〜〜」

彼から笑顔は消え、聞いたことのない言葉がその場に残った。これが彼との初会話である。




遡ること1ヶ月前、理由もなく寄り道して帰りたい日があり、小さい頃親によく連れてきてもらった公園に寄って帰った。

何を思うでも考えるでもなくブランコに揺られていると、目線の先でクラス男の子がスキップをして通って行った。

私は彼がなぜスキップをしているか気になってしまい、つい後ろを追いかけてしまった。
というのも、彼とはまともに話したことないが、教室で見かける彼はクラスで大人しく、いつもテンションの低いイメージなのだ。

「あ〜やっぱり高木だな〜」
そんな独り言を呟きながら探偵気分で後ろを追う私。
歩道橋を渡っている途中で足を止める高木。

飛び降りか⁈と一瞬危惧し、止めに入るべきかと走り出したが、彼はカバンからカメラを取り出し、私は慌てて引き返し隠れた。
カシャ、カシャとシャッター音が鳴り、カメラは晴れた空に向けられている。

「あっぶな〜〜」と心の声が少し漏れる。あと数秒遅ければ大早まりを決め込み、気まづい事態となっていた。

冷静になれば飛び降りを考える奴がスキップなんてするはずもないじゃないか。そう思って自分にちょっと笑ってしまった。

そして、高木は鼻歌を歌いながらまた歩き始めたので、その後を追う。

所々で足を止めては木々を撮ったり、呑気に散歩している野良猫の写真を撮ったりを繰り返し、気がつけば日が落ちていたので、途中で追うのを諦め来た道を戻った。





家に帰ってからも、高木の教室で大人しい姿とスキップや鼻歌を歌う姿とのギャップが気になり、自然と首を傾けながらベッドに横になりインスタを眺めていた。

(待てよ……インスタに今日の写真投稿とかしてたり……あるんじゃない⁈)

身体を起こし正座でスマホと向き合う。1度深呼吸をし、今日撮っておいた写真の場所やモノを思い出す。

5分ほどインスタと格闘したところでそれらしい投稿をしたアカウントに辿り着くことができた。我ながら大したもんだ。

ただ、まだ確証はない。ということで……




次の日も高木の跡をつけてみることした。

この日の高木は何をするでもなく、真っ直ぐに家に帰っていた。家まで跡をつけてしまったので、とうとう私は高木の家の場所まで突止めてしまったらしい。

「ただいま〜」
と高木が玄関のドアを開け家に入って行くや否やワンッワンッと家の中から犬の鳴き声がうっすら聞こえてくる。

(そういえば、1枚だけ犬の写真を挙げていたような……)

そうして私は自然にコクコクと頷きながらUターンし、我が家へ帰っていった。


気がつけば、次の日もその次の日も私は高木を尾行していた。

(まるでストーカーだな私)
そんなことを思いながらAmazonで買った鹿撃ち帽を被り、ケトルのおもちゃを口に咥える。

2、3日跡をつけて分かったことは、やはり写真を撮るのが好きということと、インスタで見つけたアカウントが高木のものだということ。

彼を後ろから追い、彼が写真を撮ったところと同じ場所、同じ角度で写真を撮り、家で画像検索をかけ高木のインスタ(裏アカ)を特定するにまで至った。

フォローもフォロワーも15人程度のアカウントだった。

だから友達にも教えてない裏アカかもしれない!
そう思うと謎の優越感が湧き上がってきた。

FFの欄もついでに眺めていると、「おん?」

私の目に力が入り、眉間にシワがよる。

見覚えがあるというか、知ってる人というか、絶賛調査中の高木にもう1つのアカウントがあるではないか。

しかも、コイツ堂々と自分の顔面のみを投稿してやがる。

風景とかを撮るだけでは物足りず、自分にまで手を出したのかな、と思いながら投稿をタップすると、
[ベガとかアルタイルみたいに、俺の輝きにも名前が欲しい]

そう書きながらカッコつけた自撮りを投稿していた。

私はあまりにも強烈な投稿に、静かな自室で大声をあげて笑ってしまった。

だけど、なぜかこの投稿にキモいとか嫌悪感を抱くことはなく、可愛いなコイツくらいに思っていた。

私はひと呼吸置きちょっと考え決めた。


「よし、高木に裏アカを見つけたことを言ってみよう!」




そして今に至る。

「今からポエムみたいな文読みあげよっか?」

私は、にこやかに彼に問いかける。

「何で知ってるんでしょうか、その……アカウントを」

「まあ〜いろいろ偶然が重なってかな」

さすがにしばらく跡をつけていたことは言えない。

「どうかクラスで広めたりだけは勘弁してもらえないでしょうか」

彼は怯えながら少し頭を下げお願いしてきた。

誰かに話すという事を全く考えておらず、私は彼の弱みを握っている状態なのだと今気づいた。

「大丈夫大丈夫。それはしない、約束する。ただ、私のことを気にせずこれまで通り投稿を続けること……どう?」

「それはかなり恥ずかしいんですが……」

「じゃあ言いふらす」
「毎日投稿させていただきます!」
そう言って、猛スピードで頭を下げてきた。

私は満足気にケタケタ笑っていた。

そして、ちょっとした沈黙をまた風が通り抜け2人を掠めた。

高木がもう完全敗北しました、みたいな顔でこっちを見つめてくる。

「もうこの際だから言うけどさ、俺の裏アカはもう1つあるよ。これで全部じゃない」

「うっそ!」
私は目を見開き、彼の告白に分かりやすく驚きを見せた。

「探してみてよもう1つも」
右手で頭を掻きながらにこやかに彼は私に言ってきた。

これは彼が身を投げ出してまで渡してきた挑戦状なのだろう。

私は素直に嬉しかった。勝手に彼の表裏全部知ったつもりでいた。
でもそうじゃなかった。

「絶対に見つける!」

それはもう力強く、目でも訴えるように彼に言った。さらに、

「じゃあ、もっとこれから高木のこといっぱい教えてね」


後で聞いたところ、その時の私の笑顔は推しの子の星野アイを彷彿とさせるような輝きを見せていたらしい。
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