仮面夫婦を望んだ冷徹な若社長は妻にだけ惚けるような愛を注ぐ。【逃亡不可避な溺愛シリーズ1】
 それどころか、芽惟を見て余裕そうな笑みを浮かべる始末だ。……なんだか、無性に腹立たしい。

「……お言葉ですが、意味がわかりません」

 震える唇を開いて、そんな言葉を口にする。

 その言葉を聞いたためなのか、敦也が喉を鳴らして笑った。

 何がおかしいのだ。

「……あの」
「いえ、失礼しました。……なんて言いますか、俺の予想したような反応をする人だな、と思って」

 彼がアイスコーヒーをストローで混ぜる。カランという音を立てて、氷同士がぶつかる。

「……俺は、別にあなたが好きなわけじゃない」
「……知っています」

 そもそも、今日出逢ったばかりの人なのだ。これで好きだと言われたら、逆にドン引き案件だった。

 だから、芽惟はこくんと首を縦に振る。敦也は、笑っていた。

「ただ、あなたに興味はある。……先ほどの彼女に聞いたところによると、あなたは社長令嬢だとか」
「……そう、ですね」

 一体どこまで彼は知っているのか。それを考えると恐ろしいので、考えない方向で行こう。

 心の中でそう決めて、芽惟はぎゅっと手のひらを握りしめた。
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