仮面夫婦を望んだ冷徹な若社長は妻にだけ惚けるような愛を注ぐ。【逃亡不可避な溺愛シリーズ1】
「しかも、企業は倒産寸前」
「……」

 本当に、彼は一体どこまで知っているのか。

 そう思って、芽惟は軽く敦也を睨みつけた。彼が、唇を歪める。

「妻になるかもしれない女性の素行調査は、必要でしょう」
「……妻、って」

 彼が何を言っているのかが、いまいちよくわからない。そもそも、芽惟と敦也は初対面だ。求婚してきたのも意味がわからないし、素行調査される筋合いもないだろうに。

「まぁ、簡単に言えば。俺の妻になれ、ということですね」

 敦也がそう言って、鞄を漁る。そして、取り出したのはきれいなジュエリーケースだった。

 それを見て、芽惟が目をぱちぱちと瞬かせていれば、彼は何のためらいもなくそれを開ける。そこには……大ぶりのルビーがあしらわれた指輪があった。

「失礼。あなたのお誕生日が、七月だと知ったので」
「……誕生石」

 ぼうっとしつつ、そんな言葉を返す。敦也がこくんと首を縦に振る。……一体、彼はどこまで本気なのか。

「俺にはあなたしかいないと、思っています。芽惟さん、俺と結婚してください」

 ……もう、何が何だかわからない。

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