仮面夫婦を望んだ冷徹な若社長は妻にだけ惚けるような愛を注ぐ。【逃亡不可避な溺愛シリーズ1】
「あ、出かける際は細心の注意を払ってください。……誰が、何処で監視しているかわからないので」
「……え、えぇ、わかりました」

 やはり、彼は一種の芸能人なのだろう。

 それを察しつつ、芽惟は部屋を私室として与えられた部屋に足を踏み入れる。

「……なんていうか、悪いなぁ」

 思わず、ボソッとそんな言葉が零れた。

 敦也にはもうすでに宗像企業への援助をしてもらっている。おかげで、正史の調子もよくなっており、精神的にも安定したようだ。

 しかし、それに合わせ住む場所まで提供してもらうだなんて……なんというか、おんぶにだっこ感が否めない。

「家賃出すって言ったのに、断られたし……」

 敦也が自身の部屋に戻ったのを確認して、芽惟はそう零す。芽惟の財布事情ではこのマンションの家賃なんて、半額も払えないだろう。だけど、ある程度は払うつもりだったのに。

 彼は、そんなもの必要ないという。曰く、雇われ妻としての給料でもある……らしい。

(っていうか、市原さん……いいえ、敦也さんのご両親って、どんな方かしら?)

 そういえば。ふと、彼の両親に会っていないことを思い出す。

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