仮面夫婦を望んだ冷徹な若社長は妻にだけ惚けるような愛を注ぐ。【逃亡不可避な溺愛シリーズ1】
 それからは、慌ただしかった。まず、引っ越し業者に運んでもらった段ボールを開け、荷解きをする。

 芽惟はあまり荷物の多いほうではないが、初めての引っ越しと言うこともあり、とにかく手こずった。

 要領はいいほうだと思っていたが、それはどうやら片付けには適していなかったらしい。よくよく考えれば、芽惟の部屋はとにかく汚かった。……物が少なかったので、ある程度マシに見えていただけだと、気が付く。

 そう思いつつ、芽惟がある程度の荷解きを済ませた頃には、すっかり空は暮れていた。オレンジ色の夕日が沈みつつあり、もうそろそろ夕食だろうか。

(……なにか、作ったほうがいい?)

 これでも料理は出来るほうだ。ならば、なにか作っても――と思ったものの、まだ食材を買っていないことに気が付く。

 ……今日は、近くのスーパーかコンビニで済ませなくちゃならないかもしれない。

「とりあえず、敦也さんの指示を仰いだほうがよさそうね」

 そう呟いて、芽惟は敦也を探すことにする。

「っていうか、広いってそれだけ掃除が大変っていうことじゃない」

 ついつい、本音が零れた。敦也のことだ。お掃除ロボットかなにかは取り入れているのだろうが、いくらかは自らがやったほうがいいだろう。お掃除ロボットだって、完璧じゃない。

 そんなことを考えて、芽惟は敦也の部屋の扉をノックする。すると、中から返事が聞こえてきた。

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