仮面夫婦を望んだ冷徹な若社長は妻にだけ惚けるような愛を注ぐ。【逃亡不可避な溺愛シリーズ1】
「敦也さん。夕食なのですが、近くのコンビニで買ってこようと思うのですが……?」

 恐る恐るそう声をかければ、部屋の扉が開く。その際に、敦也の部屋が見えた。……すでに組み立てられた、仕事用のデスクと椅子。そのデスクの上には、パソコン関連と――写真立て。

 芽惟が写真立てに視線を惹きつけられそうになっていると、敦也が「わかりました」と言葉をくれた。

 なので、ハッとする。

「では、俺の分もお願いできますか?」
「え、あ、はい」

 元より、そのつもりなのだけれど。

 そう言おうかと思ったのに……言えなかった。ただ淡々と返事をして、芽惟は敦也の部屋の扉を閉める。

 部屋に戻って、カードキーを手に取って、玄関を出て行った。……ただ、もやもやとしてしまう。

(……あの、写真立て)

 そこには、美しい女性が映っていた。そして、あの女性を、芽惟は何処かで見たような気が――。

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