仮面夫婦を望んだ冷徹な若社長は妻にだけ惚けるような愛を注ぐ。【逃亡不可避な溺愛シリーズ1】
「っていうか、最近またやつれた? 働きすぎだよ」
「……でも、私が働かないと、会社がもっとダメになるし」

 苦笑を浮かべて、そう言う。実際、正史だけでは限界がある。弟はまだ大学生だし、正史を助けられるのは芽惟だけだ。

 そう思って働いて、働いて。寝る間も惜しんで働いて。……その所為か、ほんの少しやつれたのは自覚がある。

「芽惟のそういう真面目で責任感の強いところ、割と好きなんだけれどさぁ……」
「ありがとう」
「だけど、やっぱり休んだほうがいいって。このままだと、取り返しのつかないことになるよ?」

 そんな風に言われても、芽惟にはピンとこない。そのためきょとんとした表情を浮かべてしまう。

 すると、麗美はびしっと指を指す。

「芽惟が倒れたら、余計に会社は回らないの。……わかる?」
「……うん」
「だから、適度に休むこと。日曜日だったら私も休みだし、いくらでも付き合うからさ」
「……ありがと」

 それしか、言えなかった。

 麗美は純粋に芽惟のことを心配してくれている。それがわかるから、彼女を無下には出来ない。

(そうはいっても、やっぱり働いているほうが楽なのよね……)

 届いたカフェラテをストローで混ぜつつ、芽惟はそう思う。その気持ちは、麗美には伝わっていませんように。

 そう、心の底から祈る。そうじゃないと、彼女はまた文句を言うのだろうから。

< 6 / 49 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop