「推しカプを拝みたいだけ」で王子の婚約者選抜試験に参加したのに、気がつけば王子の子を妊娠してました
 このメガネをリーゼにかけさせてしまえば、あっという間にリーゼの世界はくっきりはっきりクリアになる。
 つまり……これをかけさせた瞬間に、リーゼと束の間のラブラブ時間(だと本人は信じて疑っていない)を楽しんでいる男の正体がエドヴィン王子だとバレてしまう。

「良かったわ、明日に間に合って」

 アレクサンドラは、しっかり今日もクリームで手入れした、白魚のように美しい手で、ニーナからメガネを受け取った。
 二人で決めた、ある作戦のために。

「でも、良いんですか?私がいうのもアレですが」
「良いも悪いも、ヘタレが右往左往する姿が見られるなら」
「そうですか」

 ニーナは、ふと窓の外を見ながら、今頃きっと砂糖菓子のようにデロンデロンに溶けまくった笑顔を、リーゼ以外の場内全ての人間に晒しまくってる、残念ヘタレ王子とその横にいる変態令嬢のことを真面目に考えた。

(まさか、ここまで、私のメガネなし作戦が効果があるとは……)

 自分で提案したにも関わらず、ニーナは今起きている現象を信じられないと本気で思っていた。
 予想以上にリーゼの方がエドヴィン王子(とリーゼ本人は思っていない)にどっぷり浸かっている様子なのが、ニーナにとってはちょっとした計算外だった。

(自分の不労所得のためとはいえ、ここまでうまくいきすぎると怖い)

 ニーナは経験上知っていた。
 物事、うまくいきすぎた後にはしっぺ返しが来ると。
 だからだろうか。
 このまま進めることに、今まで感じたことがない恐怖をニーナは感じるようになっていた。
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