「推しカプを拝みたいだけ」で王子の婚約者選抜試験に参加したのに、気がつけば王子の子を妊娠してました
 こうして、リーゼを確保するための婚約者試験の準備ができ、無事に招待状が届いたのが今。
 もちろん、ニーナは王家の紋章が正式に入った招待状くらいで、リーゼをちゃんと王宮に、それも婚約者候補の1人として連れて行けるとは思っていない。
 リーゼの行動動機は「推し」に関する全て。
 推しを愛し、推しのために行動し、推しを広めることこそが生きがいだと、リーゼは寝言でまで言うほどだ。
 これを、利用しない手はないだろう。

「リーゼ様、この招待状は間違いなくリーゼ様が招待された、という証なのは、お分かりですね」
「……リーゼ・ブラウニーという名前のご令嬢が他にいる可能性は」
「あるわけないでしょう」
「まあ、そうなんですの?」

 たとえ同姓同名がいたとしても、王子が欲しているのは、目の前にいる令嬢なのは間違いない。
 むしろ同姓同名の別人が王宮に来てしまった日には、ニーナが王子から「約束が違うではないか!」と、不労所得につながる契約がなかったことにされるに違いない。
 そんなことは、断じてあってはならない。
 だからニーナは、エドヴィン王子と裏取引をしてから今日の今日まで、イヤイヤではなく、意気揚々とリーゼが王宮に行きたくなるような理由づけを考えた。
 自信は、ある。

「リーゼ様、この催しには確実にアレクサンドラ様もいらっしゃるでしょう」
「当たり前でしょう。いらっしゃらなければ、世界が崩壊してしまうわ」
「……まあ、じゃあそういうことにしておくとして……と、いうことはですよ、リーゼ様。久しぶりに、生エドアレが見られますよ」
「はっ!言われてみれば……」

 エドアレというのは、この2人のカップリングをの略称。もちろん名付けたのはリーゼだ。
 ちなみにリーゼが、エドヴィン王子とアレクサンドラのセットを目にしたのは数ヶ月前の舞踏会以来。
 日々お手製彫刻とか絵で心を紛らわせているとはいえ……ニーナは確信があった。
 生のエドアレに、リーゼが飢えているということを。

「つまり、この婚約者試験に行けば」
「生エドアレを堪能できるのね。滾る」

 でも、生エドアレを眺めるだけであれば、機会は他にもある。
 99.9%心変わりすることはないと思いつつ、最後の0.1%の可能性も、ニーナは握り潰しに行く。

「しかも、リーゼ様」
「何?」
「もしかすると、リーゼ様がアレクサンドラ様のサポートをしてアレクサンドラ様が婚約者として認められるかもしれませんよ」
「え!?」

 つまり、推しのために自分を捧げたい欲を存分に持つリーゼに、最上級の餌をチラつかせるのだ。
 自分の存在が、推しの幸せ(と、リーゼだけが思っている)を確固たるものにする、という。

「婚約者試験の中に、裁縫や芸術の試験があるらしいです」
「どうしてそんなことを知ってるの?」

 どうしても何も、王子と2人で、リーゼが勝つために作った試験だから……などと言えないニーナは

「他国の試験で似たようなものがあったそうです」

 さらりと嘘を言ってのけた。
 ちなみにニーナには、他国の王家の婚姻事情を知る術はない。

「まあ、そうなの」
「芸術と裁縫は、リーゼ様お得意中のお得意ですよね」
「そんな、得意って言えるほどでは」

 あれを得意と言えなかったら、誰が得意なんだよ、と言いたくなる気持ちをグッと堪えながら、ニーナは続けた。
 絶対に、リーゼが意志を持って婚約者試験に行き、実力も発揮しまくるための言葉を。

「リーゼ様がアレクサンドラ様の試験のサポートをして差し上げると、アレクサンドラ様がお喜びになるのでは」
「喜んで!」

 よし即答、と心の中で何度もガッツポーズをしたニーナ。

「萌えは、心の栄養素よ。そして萌えの源泉こそ、推しの幸福。この私が、守ってあげる!」

 別の意味でやる気満々なリーゼに、少々頭を抱えそうになりつつも、無事に婚約者試験に送り込むことに成功した
ニーナは、近い将来来るかもしれない不労所得生活が始まった時の妄想をしながら、リーゼがほとんど手につけなかったお菓子とお茶を片付けた。
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