「推しカプを拝みたいだけ」で王子の婚約者選抜試験に参加したのに、気がつけば王子の子を妊娠してました
 今、リーゼの興奮はとどまることを知らない状態だった。
 アレクサンドラと言葉を交わしたことなど、せいぜい家族と一緒に招待された舞踏会で挨拶したくらい。数は片手で数えられてしまう。
 こんな、その他大勢のモブである自分なんて、アレクサンドラの頭の中からは、美しい銀髪を洗う度に綺麗さっぱり消えてしまっているとばかり思っていたのに。

「あ、あの!アレクサンドラ様」
「なあに?」
「まさか、アレクサンドラ様に話しかけていただけるなんて、光栄の極みです!生涯忘れません!」
「大袈裟ね」

 嫌味の1つも感じさせない、上品な微笑もまた、リーゼのアレクサンドラに対するファン心をくすぐるものだった。

「それで、リーゼ……様?」

 しかも自分の名前まで呼んでくれた。
 今日死んでもいいと、リーゼは本気で思ってしまった。

「なんでしょう!!!」
「さっき誰が、王妃殿下として立つって、あなたおっしゃった?」
「もちろん、アレクサンドラ様に決まってます!!」

 さっきの、自分と同じような……いや……自分よりは綺麗かもしれないが……それでもアレクサンドラの足元にも及ばないような令嬢達なんかより、ずっとアレクサンドラのほうが王妃として立つに相応しい。
 この人のためなら、せっせと働いて税金を納めたい。
 いや、この「推しカプ」のためにならどれだけ貢いでも悔いはない。
 今、リーゼは改めてそう思うことができた。

「本当は、こんな会に私なんか場違いだと思っていたんですけど」
「そんなことないわよ」
「はい、私がきた意味はあったと思います!」
「そ、そうよね」
「はい!アレクサンドラ様に貢ぎたい欲がちゃんと醸成されました」
「…………はい?」
「もう、エドヴィン様とアレクサンドラ様お二人のためであれば、このリーゼ、どんなに泥だらけになっても納税させていただきます!その覚悟が今日できました!!」
「ちょっ、ちょっと待ってリーゼ様」

 アレクサンドラが、何か言いたそうに口を開いた時だった。
 ごほんと、いつの間にか現れていたエドヴィン王子の侍従が咳払いをしてから

「これから、最終審査の面接を行います」

 とアナウンスした。
 リーゼはその瞬間、アレクサンドラの白魚のような手が壊れないように、慎重に、だがしかし力強さは伝わるように握りしめながらこう宣言した。

「お任せください!!アレクサンドラ様がいかに王妃として素晴らしい資質をお持ちか、どれだけ私がお二人に納税したいかを、しっかりと、伝えてまいります!」

 その言葉を聞いたアレクサンドラが、どんな表情をしていたのか、もうこの時のリーゼにはどうでも良かった。
 目の前には、推しカプのウエディング姿が広がっており、リーゼはそれをどう言語化するかだけで頭がいっぱいになってしまったから。
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