「推しカプを拝みたいだけ」で王子の婚約者選抜試験に参加したのに、気がつけば王子の子を妊娠してました
 エドヴィン王子にとっての地獄は、まだまだ続く。

「君が、王妃になったら何をしたい?」

 わざわざエドヴィン王子は「君が」と、主語がリーゼであることを強調したにも関わらず

「殿下とアレクサンドラ様が築いていかれる平和で華やかな時代を、作家として後世に伝えていきます!」

 と、華麗にエドヴィン王子の意図をスルーした。

「…………作家に、なりたいの?」

 エドヴィン王子は、まず自分の話に関心を持ってもらおうと、リーゼが出したキーワードを話題に出すことにした。
 それが、恋愛を成功させる話術であると、過去エドヴィン王子が読んだことがある本には書いてあったから。
 だが、それが余計にエドヴィン王子の純粋な心をグサグサと抉ることになる。

「はい!いかに推しが素晴らしい存在かを、この国中……いいえ、世界中に伝えるには、本ほど素晴らしいものはないと思うんです」
「うん?」
「本当であれば、エドヴィン様とアレクサンドラ様のお美しいツーショットを、そのまま動画や絵画の形で残して発信することができれば、より多くのエドアレ推しを生み出し、薄い本やグッズの市場も活発化するとは思うのですが、大変申し訳ないことに私はその知見を持ち合わせておらず」

 待て待て。絵画はともかく……動画?薄い本?グッズ?何それ。
 エドヴィン王子は、それからも次から次へと出てくる理解不能な言葉の海に溺れそうになっていた。

「推しは推せる時に推すべきでして、推すべきタイミングに合わせて私は作品を出したいんです!」
「う、うん?」
「こうやってご縁いただきまして、アレクサンドラ様が王妃に選ばれる瞬間に立ち会えるなんて、至極光栄の極みと言ったら」
「ちょ、ちょっとまっ」
「私にとって、エドヴィン王子とアレクサンドラ様の一生を追いかけるのはまさに、命をかけた使命と思っております!!お二人がどれっだけっ!素晴らしい存在かを語らせたら、私は私以外の人間には必ず勝てる自信があるのです!!」

 さらにこの後リーゼの口から語られたのは、自分とアレクサンドラの形を木で作った人形のようなものを作っているということ。
 それを、結婚式のタイミングに合わせて売れば莫大な資金ができるであろうと考えていること。
 そして……。

「お二人という、運命的な推しカプに貢ぐために、私はお二人を推す代表として、グッズ制作から小説、そして技術が発展すれば絵画、動画に至るまで考えられるあらゆる手段で儲けてみせます!!」

 と、宣言されてしまったのだった。
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