「推しカプを拝みたいだけ」で王子の婚約者選抜試験に参加したのに、気がつけば王子の子を妊娠してました
 蜜愛文庫。
 それは、大人の女性が脳内で理想の恋愛を楽しむことができるようにと生み出された、ちょっとえっちな恋愛小説に特化した出版社。
 ニーナは、この5文字が夢でも出てくるようになってしまった。
 何故なら、リーゼがデビューを目指している出版社こそが、蜜愛文庫であり、せっかく父や兄たちが与えた豪華なドレスもさっさと売り払ったかと思えば、街の本屋に置かれている全ての蜜愛文庫の本を買い漁るほどの浸かりっぷりなのだ。
 ファンの間ではこう言うらしい。

「あなたも、蜜愛漬けなのね」

 あ、やっぱりこれもモノホンなんだ……。
 ニーナは、蜜愛文庫のガチファンしか使わない、仲間に対する呼称がアレクサンドラから出てきたことで、ますますアレクサンドラへの印象が塗り替えられて行ってしまった。

「み、みつ……あいづけ……とは?」
「「男は黙ってなさい」」

 ニーナとアレクサンドラは、息ぴったりに、エドヴィン王子にこれ以上詮索するな、と伝えることに成功してしまった。

「そう、やっぱりあなたもこっち側なのね」

 いいえ、私は違います。
 それはリーゼ様の方です。
 むしろ私は、人をどんどん薙ぎ倒していくアクション系スプラッタ小説の方が好みです。
 そう言いたかったが、それはそれで話をややこしくしそうだったので

「…………ご想像にお任せします」

 と言葉を濁すことにした。
 その結果、アレクサンドラの目が、見たことあるような輝きを放ち始めたので、ニーナの脇からはめんどくせえな、と思った時に出てくる汗がじんわりと滲み始めた。

「ええとですね」

 とりあえず、ニーナは大きく咳払いをしてから無理やり方向転換することにした。

「話を戻しますが、1週間でリーゼ様を殿下がどうにか必死こいて口説いて、王子とのベッドインに持ち込む……と言うのがアレクサンドラがおっしゃる作戦ということで、よろしいでしょうか?」
「賢い子は好きよ」

 褒められているはずなのに、嬉しくないのは何故だろう。

「そのために、あなたに来てもらったのよ」
「はあ…………」

 何故、この場をアレクサンドラが仕切って言うのだろうか、と言うツッコミは必要だろうかと一瞬悩んだが、この数分の間でイケメンが少々台無しになるほど、ゲンナリしたエドヴィン王子の表情を見て、力関係を察することができたニーナだった。

「私たちは最初に、何をリーゼ様にすれば良いのでしょうか?」

 アレクサンドラ様からの問いかけは、むしろこっちの方がそれ聞きたいわ!と言いたくなるくらい、ニーナにとっても解決難易度がSランクのものだった。
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