「推しカプを拝みたいだけ」で王子の婚約者選抜試験に参加したのに、気がつけば王子の子を妊娠してました
 時がきたのは、それからたった数分後のこと。

「………………何を…………しているんだ………………?」
「おかわりのお紅茶、持ってきてあげましたわよ」

 リーゼが笑顔で「おいしいおいしい」とケーキを頬張っているのと対照的に、エドヴィン王子は頼んだ紅茶のおかわりを持ってきたウェイトレスを見て、ひどくげんなりした表情を浮かべた。

「あれ?今の声、アレクサンドラ様ですか?」
「リーゼ嬢、すまない、実は」
「いいえー私はーただのーウェイトレスですわー」
「っ!?」

 アレクサンドラは、鼻をつまみ、普段は絶対出さないような電波声で返答した。
 とはいえ、リーゼは推しをこよなく愛し、常に研究をし尽くしているような人間だ。
 じーっと、リーゼはウェイトレス姿をしたアレクサンドラを、目を細めて頑張って認識しようとしていた。
 アレクサンドラはその間、呼吸を止めながら、リーゼが離れるのを待った。
 リーゼは、くんっと匂いを嗅ぎながら

「アレクサンドラ様がおつけになっている香水とは、違う……?」

 とぶつぶつ、アレクサンドラと目の前のウェイトレスとの違いを呟いた。

「最初お声は似ていらしたけど……でもその後聞いたオウムのような変なお声は、アレクサンドラ様の神々しい声帯から出せるはずもないし」

 リーゼがここまで言ったところで、エドヴィン王子は我慢できなくて吹き出した。
 もちろん、アレクサンドラはエドヴィン王子には非常に厳しいので、そんな様子を見逃すはずもなく。

「お嬢様〜大変申し訳ないのですが〜お連れ様を少しお借りしてもよろしいでしょうか〜」

 リーゼ曰く、アレクサンドラの声帯は出さないようなオウム声を出しながら、アレクサンドラはエドヴィン王子の首根っこを捕まえた。

「あ、は、はい……?」
「り、リーゼ嬢すまない!ここで待っていて欲しい……!」
「は、はぁ……」

 困惑するリーゼに謝りながら、エドヴィン王子は無惨にもずるずるとアレクサンドラに裏まで引き摺られた。
 その一連の流れを遠くから見ていたニーナは、吹き出すのを堪えるのがやっとで、呼吸困難になりかけたとか。
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