「推しカプを拝みたいだけ」で王子の婚約者選抜試験に参加したのに、気がつけば王子の子を妊娠してました
「あの、このタイミングで恐縮ですが、殿下」
「何だ」
「…………あれをご覧になっても、まだリーゼ様を……その……殿下の婚約者にしたいと?」

 ニーナは、確かに裏ではリーゼを悪くいうこともある。
 萌えないと言われた時は

「意味がわからないわ!!」

 こんな風に、八つ当たりで枕に蹴りを連続でお見舞いしたこともあったし。

「推しグッズを作りたいの、一緒に買い出しにきて」

 などと可愛くおねだりしてきたかと思えば、令嬢が普段絶対入らないような木材屋に無理やり連行させられ、あげく

「ねえ、この木の色だったら殿下の肌の質感に近いと思わない?」
「知りません触ったことないんですから」
「やっぱり、なめらかさはあった方が殿下らしいわよね」
「だから、知りませんって」

 と、遠い距離でしか見たことがない人間の肌の質感に合う木はどれか、について太陽が真上にあった時からとっぷりと太陽がなくなる時間まで付き合わされるし。
 ついでに夜は、誰も彼もが寝静まった時に、暇さえあれば私の寝室までやってきては

「ねえ、こんな殿下とアレクサンドラ様の話を書いたのだけど」

 と、お子様には見せられないようなシーンを読ませては

「どうかしら……ちょっとこのシチュエーションは気を使ったのだけど、お二人の雰囲気に合ってるかしら」
「だから知りませんって興味ないし」
「やっぱり、ネグリジェの脱がせ方は優しくよりも激しくの方が攻め感増していいわよね」
「何ですか攻めって」

 このように、感想欲しい、感想欲しいと犬のようにしっぽを振ってくる時は、早く寝かせてくれーと心の中で泣いた。
 そんな風に、迷惑はたくさんかけられてきた。
 でも、そんなリーゼだが、ニーナにとっては可愛いところもあり、自分にとってもいい金蔓的な、良い主人なのだ。
 もし、ここで殿下が怯むくらいなら、ここで止まって欲しい。
 リーゼの望み通り、アレクサンドラと結婚して欲しいと、ニーナは考えたのだ。
 だが、ニーナの心配をよそに、エドヴィン王子は笑顔を見せた。
 誰もが、そんな笑顔を見せられたらくらりときそうな、最高級の輝きを放っていた。
 
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