「推しカプを拝みたいだけ」で王子の婚約者選抜試験に参加したのに、気がつけば王子の子を妊娠してました

　すみれ色の髪が、太陽の光に照らされてキラキラと光り輝いていて、深い青色の瞳はぱっちり大きく開いている。
　保養地らしく、少しラフなドレスがより可愛らしさを際立たせている。
　まさに、エドヴィン王子が一目惚れをしたリーゼが、ベンチに腰掛けて空をじーっと見つめていた。

（誰かと来ているのだろうか？）

　エドヴィン王子は周囲を見渡してみたが、リーゼに付いているメイドらしき人物の姿がなかった。

（なっ……なんと言うことだ……あんな無防備な彼女を1人にしたら、変な輩が寄り付いてくるのではないか……！？）

　実際、この保養地には「未来の伴侶」「遊び相手」を選ぶためにお忍びで来ている貴族の男どもが数多くいると言う情報も、エドヴィン王子は知っていた。
　そして、今まさにエドヴィン王子の前には、チラチラとリーゼに視線を送る男どもが、パッと見ただけでも両手では数えきれないほどいた。

「殿下？　どうしました？」

　急にピタリと立ち止まったエドヴィン王子を心配したのか、侍従が恐る恐る話しかけた。

「……しばらくここにいることにする」
「は！？　ですが殿下、この後ここを治める領主との約束が……」
「そんなものより大事なことがある」

（目の前で彼女が掻っ攫われそうなこと以外、大事なことなんてあるか？　いや、ない！）

　そう考えたエドヴィン王子は、侍従が止めるのも聞かず

「や、やあ……こんなところで奇遇ですね……」

　とリーゼに話しかけた。