「推しカプを拝みたいだけ」で王子の婚約者選抜試験に参加したのに、気がつけば王子の子を妊娠してました
(後ろの方で聞こえるけど気にしてはいけない)

 エドヴィン王子は、頑張って背後から聞こえてくる雑音を気にしないようにしながら、リーゼに手を差し伸べた。

「よろしければ、お詫びさせてもらってもいいですか?」

 これは、覚えたばかりのニーナとアレクサンドラから叩き込まれたセリフだった。

「お詫び、ですか?」
「はい。先ほども申し上げましたが、新しいメガネも必要でしょうし」
「そうね……推し観察はやっぱりしなくては……禁断症状が出てしまいそうで」

 エドヴィン王子にとって、またもや馴染みが全くない言葉が再び出てきた。
 だが、エドヴィン王子にも後はないのだ。

「何か1つ、お詫びでプレゼントさせてください」
「いえ、そこまでしていただかなくても。それに……」
「それに?」
「実は私は…………一緒に来させていただいている方がいらっしゃいまして」

 それは自分のことだと、声を大にして言いたかったエドヴィン王子だった。
 でも、それは今このタイミングでは言うべきことじゃない。
 しっかりとリーゼの心を、自分が男としてがっちり掴んだ後で言っても良いだろうと、エドヴィン王子は思った。

「そのお連れ様でしたら、用事ができたとか……」
「えっ!?」

 急にリーゼの目がキラキラ輝き出したのは気のせいであって欲しいと思った。

「ですので、俺が代わりにエスコートをすることに」
「まあ大変。どちらに行かれたのかしら、早くメガネを新調して追いかけなくては」
「は?」
「用事って、きっとアレクサンドラ様の元に行かれたのよね。寂しくなって会いに行きたくなったってことよね。こうしてはいられないわ」

 リーゼは、今度は自主的にエドヴィン王子(ただしリーゼは他人と思っている男)の手を取った。

「お願いするわ!その人が行った場所はご存知ないかしら?」
「は?」
「メガネの新調とか、そんな悠長なこと言っていられないわ……。用事の合間に逢瀬だなんて、そんな推せるシチュエーションを逃す方が一生の恥、後悔でしかないのだから」

 そう言うと、リーゼはしっかりと立ち上がり、エドヴィン王子(ただしリーゼは他人と以下略)の目をしっかり見た。
 変装の効果もあったのか、エドヴィン王子その人であることも、エドヴィン王子がどれだけショックを受けた顔をしているかも、リーゼは知らない。
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