「推しカプを拝みたいだけ」で王子の婚約者選抜試験に参加したのに、気がつけば王子の子を妊娠してました
 その頃、3バカを振り回した自覚が一切ないリーゼは、さらに合わなくなったメガネに不便さを感じながらも、紙に目を可能な限り近づけて、今日感じた萌えを絵や文字で残していた。

「最初は、どうなるかと思ったけれど……」

 推しカプの片方でもあるエドヴィン王子と出かけてこいと言われた時は、正直アレクサンドラに申し訳なさすぎて、どう時間を過ごしていいか分からなかった。
 連れて行ってもらった喫茶店は、飲み物もスイーツも味は最高だった。
 だが、やはりちゃんとはっきり見えるときにもう1度行きたいと思った。
 かつては、ぼやけた世界が当たり前だったけれど、色鮮やかな世界を知り、その素晴らしさを味わってしまったリーゼは、もう元には帰りたくないと思ってしまった。
 特に今日は……状況は不本意とはいえ……推しの片方と同じ空間にいたにも関わらず、表情のほとんどを感じることができなかった。
 リーゼは、それがとても悔しかった。

「今日は、殿下はどんな表情をしていたのかしら……じっくり拝見できれば、きっと私の創作にも深みが出たのに……」

 そう言いながらもふと、1日の最後の方の出来事を思い出したリーゼは、ふふと笑みを浮かべた。

「あの喫茶店の方には、お礼を言わなくてはいけないわね」

 それは、自分の萌えをじっくりと聞いて反応してくれたから。
 しかもそれだけでなく、推しカプの逢瀬場所候補探索にも付き合ってくれたから。
 それは、リーゼへのお詫びという名目ではあったが、その時間がとっても楽しかったのは事実。

「あのお方とは、またお話ししたいわ」

 それは、推しカプ萌えを供給したいから、というリーゼならではの理由からではあったが、男性に対して今まで抱いたことがない感情を覚えていた。

 まさかそれが、殿下本人だと知らずに。
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