アラフィフママを溺愛するのは植物男子でした
1・出会いの種
「この色は、こっちの方が映えない?」
「そうですか? これもかわいいと思いますけど」
新商品のパッケージのデザイン原稿を複数見比べながら、部下である三島あかりと意見を交わす。いかにお客様に手に取ってもらえるか、広告映えするか、購入ターゲット層、それらを考えデザインするのが、私、楠木結衣子が所属する広告宣伝部の仕事だった。
私が勤めるのは食品会社だが、パッケージデザインも自社で行なっている。昔から絵を描くことが好きだった私は、面接でそれをアピールし、研修を経て希望していた広告宣伝部に配属された。
「かわいいだけじゃダメよ。今回のターゲット層は男性なの。もっと力強いインパクトが欲しいわ」
「はい、わかりました、チーフ!」
入社して約25年。素直な部下に恵まれ、今の私の生き甲斐は仕事だった。
48歳にして主任という地位には就けているが、35の時に夫に先立たれ、それ以来シングルマザーとして娘を育ててきた。なので、仕事と家庭を両立させるために、それ以上の昇格は望まなかった。
昨年、娘は大学を卒業、無事に就職して家を出た。ようやく娘が独り立ちしてくれたので、思う存分仕事に臨んでいる。
「楠木くん、今日あたり二人でどうかね?」
くたびれたスーツの部長が、こっそりとこちらに寄ってきて酒を飲むジェスチャーをした。
「すみません、部長〜。この案件は終わらせてしまいたいので……」
「そうか、残念だね〜」
お互い、ビジネススマイルでスッと離れたところで、小さく舌打ちが聞こえた。
こういったお誘いを笑顔でかわすのも社会人にとって必要なスキルだとは思うが、正直言ってストレスである。
それを見ていた三島さんと目が合い、無言で苦笑を交わすしかなかった。
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