アラフィフママを溺愛するのは植物男子でした
 植物を名前で呼んだことなんてないが、人の姿をしてるなら名前があっても良さそうだ。

「名前は、ありません。結衣子さんがつけてください」

 わぁ〜〜……。ペットや子どもならともかく、見た目50代くらいのオジサンに私が名前をつけるのかぁ〜〜。ちょっと、白目になりそうだった。
 一瞬、夫の名前が()ぎったが、それは違う、と思い直した。
 夫は亡くなった。私はそれを受け入れて一人で(より)を育ててきた。その事実を覆したくはなかった。

 彼はケイじゃない。

 私は、彼に名前をつけるために、じっくりと観察した。
 人間離れした鮮やかなオレンジ色の頭髪。これはもしかしたら、花で言うところの花びら……? 目は、私たちと同じ黒目かと思ったが、とても透き通るような琥珀色だった。水分を含んでいて肌艶はいいし、体は茎や枝の部分にあたるのか、緑のスーツ姿だ。
 体格は、スーツを着ていてもわかるほど、がっしりとしている。
 見た目の年齢は50代くらい。本当に、夫が生きていたらこのくらいの年齢だわ。

「結衣子さん、くすぐったいです」

 ……ハッ、しまった!
 つい熱が入りすぎて、彼の体をベタベタと触ってしまっていた。

「ご、ごめん。セクハラだよね……」
「セクハラ……とは、なんですか?」

 ああ、生まれたばかりの植物だもんね……セクハラも知らないのか……。
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