アラフィフママを溺愛するのは植物男子でした
私の言葉を聞いて、女性はほっとしたような笑みを見せた。
観念してスニーカーを履くと、意外にもピッタリだった。
「ありがとうございます。またお礼に伺います」
私は立ち上がり、深々とお辞儀をした。
「いいのよ、お礼なんて」
「いえ、させてください」
「じゃあお礼の代わりに、これを貰ってくれないかしら?」
女性は、白い紙袋を持ってきた。
えっ、散々世話になったのに、これ以上戴くというのは……。
「違うのよ。これを貰ってくれた方が、私は助かるの。花の種なんだけど、ガーデニングはお好き?」
「いえ、仕事が忙しくて、ここ最近は土に触れたこともないです」
「植物にはね、リラックス効果があるの。これを育てて、あなたの心を癒してちょうだい。それで、感想を聞かせて欲しいの。まあ、モニターみたいなものね」
「なるほど」
モニターと言われて、私はビジネスと受け取った。
「それと、靴を返しにくるのは、あなたがこれを育てて、本当に心が満たされた時にしてちょうだいね。感想もその時に」
「本当に心が満たされた時」とは、どういう時だろうか?
女性は、にっこりと笑って紙袋を私にキュッと握らせた。
その笑みを見て、私はなぜだかさっきまで悩んでいたことが、サアッと風に吹かれて散っていったような気分になった。
白い紙袋と、壊れたパンプスの入ったビニール袋を持って、私は花屋を後にした。
裏路地から表通りの歩道へ出て角を曲がると、背後がフッと暗くなった気がした。
きっと、女性が店じまいをしたのだろう。
特に気にも留めず、私は自宅のマンションへ向かった。
薄いグレーの生地にピンクのラインの入ったスニーカーは、とても歩きやすかった。