神様の花嫁候補になりました!?
第5話 火神様
○水神様の邸宅。
テストから数日が過ぎている。
朝から水神様がなにやら騒々しく動き回っている。
黒美と並んで食器の片付けをしていた和子はその様子に目を丸くする。
和子「なにかしら?」
黒美「さぁ? なにも聞いていないわよ・」
黒美も首を傾げている。
☆☆☆
○水神様の邸宅。
和室で、黒美と並んで座っている。
その前には水神様が座っている。
水神様「実は今日、私の幼馴染の火神様がここに来られるんです」
和子「それで慌ただしかったんですね? 準備は私達がしますのに」
黒美「お茶に、ちょっとした和菓子でも作っておきましょうか」
さっそく取り掛かろうとするふたりを静止する水神様。
水神様「そういうのは僕がやるから! ふたりはこっちに来て!」
普段の水神様らしくない慌てっぷりに目を見交わせる和子と黒美。
連れてこられたのは屋敷の奥にある物置部屋だった。
○物置部屋。
様々なものが埃をかぶって置かれていて、窓は半分が物で埋まっている。
薄暗く、畳もひかれていなくて、和子と黒美が入ると部屋はいっぱいになってしまった。
水神様「ちょっと埃っぽいけれど、あいつが来ている間はここにいてほしいんです」
和子「私達がおもてなしをしなくていいんですか?」
水神様はぶんぶんと左右に首をふる。
水神様「そんなことはしなくていいですから!」
黒美「そんなに慌てて、どうしたんですか?」
その質問にしばし考え込む水神様。
そして意を決したように口を開く。
水神様「実は、火神様は昔から大の女好きなんです。君たちを見たら絶対にほってはおかないでしょう。だから! 頼むからここから出ないようにしてほしいんです!」
両手を合わせて懇願する水神様に目を見交わせるふたり。
和子「で、でもその方も神様であれば、花嫁候補がいるんじゃないですか? わざわざ私達でなくても……」
水神様は大きく溜息を吐き出す。
水神様「あいつは自由奔放なヤツでね。今の今まで旅に出ていたんです。だからこの学園で火神様の花嫁候補がいたとしても、すでに別の神様の花嫁候補として勉強しているはずです」
黒美「旅、ですか……」
黒美の瞳が羨ましげに揺らめくが、誰も気が付かない。
水神様「とにかく、ここから出ないでください! いいですね!?」
水神様はそう言い置いて、忙しそうに物置から出ていく。
☆☆☆
○物置部屋。
和子と黒美が物置へ入れられてから1時間後ほど経過していた。
黒美は木製の引き戸にピッタリと耳を当てている。
黒美「お客様が来られたみたいね」
和子「水神様の幼馴染だもの。きっと火神様も優しくて素敵な方だと思う」
黒美「あら、私はそうは思わないわ」
和子「どうして?」
黒美「だって、火神様は女好きで、旅好きだとおっしゃってたじゃない。水神様とはまるで正反対よ」
和子「もしかして水が言ってたような神様なだったりして?」
黒美「水?」
和子「な、なんでもない」
黒美「火神様ってどんな方かしら。少しだけ見てみたいですね」
和子「ここから出ないように言われているんだから、言いつけは守らないと」
和子の言葉に黒美はつまらなそうに頬をふくらませる。
そして戸を少しだけ開いた。
和子「ちょっと、黒美さん」
黒美「ほんの少し覗くだけよ」
黒美はそう言うと物置から出ていってしまったのだった。
☆☆☆
○物置部屋。
20分後。
なかなか戻ってこない黒美に気が気じゃない和子。
その時スッと戸が開いて黒美が戻ってきて、和子が駆け寄る。
和子「こんなに戻ってこないなんてどういうこと? ちょっと覗くだけって言ったでしょう?」
咎める和子に黒美はぼんやりとして無反応。
頬が少し赤くなっている。
和子「黒美さん? なにかあったの? 火神様にはお会いした?」
和子の問いかけに我に返り、左右に首をふる。
黒美「いいえ。私は火神様を見てもないわ……」
☆☆☆
○物置部屋。
3時間後。
物置の戸が開いて水神様が姿を見せるが、その顔は困り果てている。
水神様「ふたりともすみません。幼馴染はすぐに帰宅する予定でしたが、お酒が入ってしまったため、今日は帰ることができなくなってしまいました」
和子「お酒を飲まれたんですか!?」
和子(普段、水神様だって飲まないのに!)
水神様「僕が席を外している間にやられました。お気にりで、チビチビと飲んでいた酒を……」
悔しそうな顔になったあと、我に返る。
水神様「いえ、お酒のことなどどうでもいいのです。問題はあいつがこの家に泊まるということです。さっきも説明したとおり、僕の幼馴染は女好きです。おふたりは部屋に戻ったら、絶対に外へ出ないようにしてください」
和子(そんな危険なヤツとひとつ屋根の下で過ごすの!?)
水神様「幸いにもあいつは今寝入ってします。今の内に食事とお風呂を終わらせて、部屋へ戻ってください」
☆☆☆
○水神様の邸宅の和子の部屋。
中央の布団に潜り込んでいる和子。
和子(水神様があれだけ脅してくるから、怖くて布団から出られないじゃない)
少しでも外から物音が聞こえると、ビクリと震える。
和子(今日はもう花嫁修業どころじゃないわね。黒美さんだってやることがなくて眠っているだろうし、私も少し眠ろう……)
☆☆☆
○水神様の邸宅の和子の部屋。
夜、布団にもぐって目を開けている和子。
和子「しまった。昼寝しすぎて眠れなくなっちゃった」
屋敷の中は静寂に包まれている。
和子(仕方ない。眠れないから明日の朝食の準備でもしておこうかな。今台所へ行ったって、きっと誰もいないだろうし)
布団からおきだそうとしたとき、廊下に足音が聞こてきて動きを止める。
足音は小さく、意識的にゆっくり歩いているのがわかる。
和子(こんな時間にこんなところを歩く人なんていないのに……)
足音は和子の部屋の前で止まった。
和子は咄嗟に布団を頭までかぶる。
心臓がドクドクと高鳴る。
障子が開く微かな音がして、和子は呼吸を止める。
畳を踏みしめるミシミシという音が聞こえて、布団のすぐ隣で止まった。
和子の全身から汗が滲み出す。
思い切って布団から顔を出すと同時に人影が和子に覆いかぶさってきた。。
和子「きゃああああ!!」
耳をつんざく絶叫に水神様が飛んでくる。
水神様「なにをしてるんですか!」
その声は人影に向けられた。
明かりがついて部屋の中の様子がわかると、見たことのない、真っ赤な髪の毛の男性が和子の布団の横で尻もちをついている。
男性は水神様よりも筋肉質で、よく日焼けをしたスポーツマンのような見た目だ。
和子「だ、誰なのあんた!!」
男「え? あ、えぇ?」
混乱したように周囲を見回す男。
水神様は男の首根っこを掴んで立たせた。
水神様「すみません和子さん。こいつが僕の幼馴染です」
和子「え、ってことは、火神様!?」
申し訳ない顔の水神様と、火神様を皇后に見つめる。
和子(こんな人が……夜中に女性の部屋に忍び込むような人が神様だなんて!)
ショックでくらくらする。
そこに黒美が騒ぎを聞きつけてやってきた。
黒美を見た火神様が目を大きく見開く。
火神様「あちゃー。間違えたか」
水神様「お前はもう十分酔いも覚めただろう。悪いけれど、帰ってくれ」
火神様「ちょっと待てよ。こんな夜中に外に追い出すつもりか?」
水神様「お前は火の神様だ。自分の脳力でいくらでも暗闇を照らすことができるだろう」
火神様「待ってくれよぉ。俺たち友達だろ? な? 追い出すなんてひどいと思わないか?」
水神様「人の花嫁候補に夜這いをかけるような幼馴染を平気で家に置いておけるほど心は広くない。出ていけ!」
水神様は廊下の窓を開けると、火神様をそのまま追い出してしまった。
水神様「和子さん大丈夫ですか? なにも、されてないですよね?」
和子「だ、大丈夫です。少しびっくりしただけで」
水神様「本当にすみませんでした。あんなヤツを家に上げた僕の責任です」
和子「水神様のせいじゃありません! すぐに助けに来てくれたじゃないですか」
その時の光景を思い出して胸が高鳴る。
増々水神様に惹かれていく。
黒美はふたりのやりとりの中、火神様が追い出されてしまった窓の外をジッと見つめている。
和子「黒美さんも大丈夫? びっくりしたでしょう、ごめんね?」
和子の問いかけに我に返る。
黒美「いえ、私は……」
途中で言葉を切り、思い出したように険しい表情を和子へ向ける。
黒美「急に大きな悲鳴を上げるから、ビックリしました。自分の身を自分で守る術も持っていないんですか?」
和子「あ、それは……ごめんなさい」
黒美「そんなんじゃこれから先水神様のお荷物になるだけなんじゃないですか?」
いつも優しい黒美からの辛辣な言葉に和子は絶句する。
水神様「黒美さん、いったいどうしたんですか? あなたらしくない」
黒美「いいえ水神様。これが本来の私です。水神様は少し和子さんを甘やかしすぎなんじゃあありませんか?」
水神様「うっ。それは……」
黒美「とにかく、夜は静かに休憩させてくださいね」
黒美は和子に釘を刺して部屋を出たのだった。
☆☆☆
○水神様の邸宅の和子の部屋。
夜。
布団に入っている和子は落ち込んでいる。
和子(普段は優しい黒美さんがあんなに怒り出すなんて。きっと私が花嫁候補としてダメ過ぎて呆れられてしまったんだ)
涙が滲んでいる。
和子(私みたいになにもできない人間が神様の花嫁候補で、しかも黒美らんのライバル。そんなの嫌に決まってるわよね。このままじゃきっと水神様にだって呆れられてしまう……)
☆☆☆
○水神様の邸宅、和室。
翌日。
和子、黒美、水神様の3人で食事をしている。
水神様「火神様は昨日追い出したけれど、念の為にまだ警戒しておいてくださいね」
黒美「はい」
和子「はい……」
和子はまだ落ち込んでいて食欲がわかず、手つかずの料理をうつむき加減で見ている。
水神様「特に和子さん」
和子「は、はいっ」
慌てて顔を上げる。
水神様「火神様はどうやらあなたのことを気に入ったようです。昨日和子さんの部屋へ忍び込んだ様子から見ると、おそらくはね。だから十分に注意してください」
和子「はい。わかりました」
☆☆☆
○水神様の庭園
水神様の庭園を掃除している和子。
和子(水神様の足手まといにだけはなりたくない。黒美さんが言っていたように、自分の身くらい、自分で守れるようにならなくちゃ!)
持っていたホウキを逆さにして両手で握りしめる。
和子「えい! や!」
掛け声を共にホウキを振り回して敵を撃退する練習を始める和子。
和子「私ひとりでも大丈夫なんだから! えい!」
乱暴にホウキを振り回している和子を見て微笑む、人影が庭園の木の奥にあるが、和子はそれに気が付かないのだった。
テストから数日が過ぎている。
朝から水神様がなにやら騒々しく動き回っている。
黒美と並んで食器の片付けをしていた和子はその様子に目を丸くする。
和子「なにかしら?」
黒美「さぁ? なにも聞いていないわよ・」
黒美も首を傾げている。
☆☆☆
○水神様の邸宅。
和室で、黒美と並んで座っている。
その前には水神様が座っている。
水神様「実は今日、私の幼馴染の火神様がここに来られるんです」
和子「それで慌ただしかったんですね? 準備は私達がしますのに」
黒美「お茶に、ちょっとした和菓子でも作っておきましょうか」
さっそく取り掛かろうとするふたりを静止する水神様。
水神様「そういうのは僕がやるから! ふたりはこっちに来て!」
普段の水神様らしくない慌てっぷりに目を見交わせる和子と黒美。
連れてこられたのは屋敷の奥にある物置部屋だった。
○物置部屋。
様々なものが埃をかぶって置かれていて、窓は半分が物で埋まっている。
薄暗く、畳もひかれていなくて、和子と黒美が入ると部屋はいっぱいになってしまった。
水神様「ちょっと埃っぽいけれど、あいつが来ている間はここにいてほしいんです」
和子「私達がおもてなしをしなくていいんですか?」
水神様はぶんぶんと左右に首をふる。
水神様「そんなことはしなくていいですから!」
黒美「そんなに慌てて、どうしたんですか?」
その質問にしばし考え込む水神様。
そして意を決したように口を開く。
水神様「実は、火神様は昔から大の女好きなんです。君たちを見たら絶対にほってはおかないでしょう。だから! 頼むからここから出ないようにしてほしいんです!」
両手を合わせて懇願する水神様に目を見交わせるふたり。
和子「で、でもその方も神様であれば、花嫁候補がいるんじゃないですか? わざわざ私達でなくても……」
水神様は大きく溜息を吐き出す。
水神様「あいつは自由奔放なヤツでね。今の今まで旅に出ていたんです。だからこの学園で火神様の花嫁候補がいたとしても、すでに別の神様の花嫁候補として勉強しているはずです」
黒美「旅、ですか……」
黒美の瞳が羨ましげに揺らめくが、誰も気が付かない。
水神様「とにかく、ここから出ないでください! いいですね!?」
水神様はそう言い置いて、忙しそうに物置から出ていく。
☆☆☆
○物置部屋。
和子と黒美が物置へ入れられてから1時間後ほど経過していた。
黒美は木製の引き戸にピッタリと耳を当てている。
黒美「お客様が来られたみたいね」
和子「水神様の幼馴染だもの。きっと火神様も優しくて素敵な方だと思う」
黒美「あら、私はそうは思わないわ」
和子「どうして?」
黒美「だって、火神様は女好きで、旅好きだとおっしゃってたじゃない。水神様とはまるで正反対よ」
和子「もしかして水が言ってたような神様なだったりして?」
黒美「水?」
和子「な、なんでもない」
黒美「火神様ってどんな方かしら。少しだけ見てみたいですね」
和子「ここから出ないように言われているんだから、言いつけは守らないと」
和子の言葉に黒美はつまらなそうに頬をふくらませる。
そして戸を少しだけ開いた。
和子「ちょっと、黒美さん」
黒美「ほんの少し覗くだけよ」
黒美はそう言うと物置から出ていってしまったのだった。
☆☆☆
○物置部屋。
20分後。
なかなか戻ってこない黒美に気が気じゃない和子。
その時スッと戸が開いて黒美が戻ってきて、和子が駆け寄る。
和子「こんなに戻ってこないなんてどういうこと? ちょっと覗くだけって言ったでしょう?」
咎める和子に黒美はぼんやりとして無反応。
頬が少し赤くなっている。
和子「黒美さん? なにかあったの? 火神様にはお会いした?」
和子の問いかけに我に返り、左右に首をふる。
黒美「いいえ。私は火神様を見てもないわ……」
☆☆☆
○物置部屋。
3時間後。
物置の戸が開いて水神様が姿を見せるが、その顔は困り果てている。
水神様「ふたりともすみません。幼馴染はすぐに帰宅する予定でしたが、お酒が入ってしまったため、今日は帰ることができなくなってしまいました」
和子「お酒を飲まれたんですか!?」
和子(普段、水神様だって飲まないのに!)
水神様「僕が席を外している間にやられました。お気にりで、チビチビと飲んでいた酒を……」
悔しそうな顔になったあと、我に返る。
水神様「いえ、お酒のことなどどうでもいいのです。問題はあいつがこの家に泊まるということです。さっきも説明したとおり、僕の幼馴染は女好きです。おふたりは部屋に戻ったら、絶対に外へ出ないようにしてください」
和子(そんな危険なヤツとひとつ屋根の下で過ごすの!?)
水神様「幸いにもあいつは今寝入ってします。今の内に食事とお風呂を終わらせて、部屋へ戻ってください」
☆☆☆
○水神様の邸宅の和子の部屋。
中央の布団に潜り込んでいる和子。
和子(水神様があれだけ脅してくるから、怖くて布団から出られないじゃない)
少しでも外から物音が聞こえると、ビクリと震える。
和子(今日はもう花嫁修業どころじゃないわね。黒美さんだってやることがなくて眠っているだろうし、私も少し眠ろう……)
☆☆☆
○水神様の邸宅の和子の部屋。
夜、布団にもぐって目を開けている和子。
和子「しまった。昼寝しすぎて眠れなくなっちゃった」
屋敷の中は静寂に包まれている。
和子(仕方ない。眠れないから明日の朝食の準備でもしておこうかな。今台所へ行ったって、きっと誰もいないだろうし)
布団からおきだそうとしたとき、廊下に足音が聞こてきて動きを止める。
足音は小さく、意識的にゆっくり歩いているのがわかる。
和子(こんな時間にこんなところを歩く人なんていないのに……)
足音は和子の部屋の前で止まった。
和子は咄嗟に布団を頭までかぶる。
心臓がドクドクと高鳴る。
障子が開く微かな音がして、和子は呼吸を止める。
畳を踏みしめるミシミシという音が聞こえて、布団のすぐ隣で止まった。
和子の全身から汗が滲み出す。
思い切って布団から顔を出すと同時に人影が和子に覆いかぶさってきた。。
和子「きゃああああ!!」
耳をつんざく絶叫に水神様が飛んでくる。
水神様「なにをしてるんですか!」
その声は人影に向けられた。
明かりがついて部屋の中の様子がわかると、見たことのない、真っ赤な髪の毛の男性が和子の布団の横で尻もちをついている。
男性は水神様よりも筋肉質で、よく日焼けをしたスポーツマンのような見た目だ。
和子「だ、誰なのあんた!!」
男「え? あ、えぇ?」
混乱したように周囲を見回す男。
水神様は男の首根っこを掴んで立たせた。
水神様「すみません和子さん。こいつが僕の幼馴染です」
和子「え、ってことは、火神様!?」
申し訳ない顔の水神様と、火神様を皇后に見つめる。
和子(こんな人が……夜中に女性の部屋に忍び込むような人が神様だなんて!)
ショックでくらくらする。
そこに黒美が騒ぎを聞きつけてやってきた。
黒美を見た火神様が目を大きく見開く。
火神様「あちゃー。間違えたか」
水神様「お前はもう十分酔いも覚めただろう。悪いけれど、帰ってくれ」
火神様「ちょっと待てよ。こんな夜中に外に追い出すつもりか?」
水神様「お前は火の神様だ。自分の脳力でいくらでも暗闇を照らすことができるだろう」
火神様「待ってくれよぉ。俺たち友達だろ? な? 追い出すなんてひどいと思わないか?」
水神様「人の花嫁候補に夜這いをかけるような幼馴染を平気で家に置いておけるほど心は広くない。出ていけ!」
水神様は廊下の窓を開けると、火神様をそのまま追い出してしまった。
水神様「和子さん大丈夫ですか? なにも、されてないですよね?」
和子「だ、大丈夫です。少しびっくりしただけで」
水神様「本当にすみませんでした。あんなヤツを家に上げた僕の責任です」
和子「水神様のせいじゃありません! すぐに助けに来てくれたじゃないですか」
その時の光景を思い出して胸が高鳴る。
増々水神様に惹かれていく。
黒美はふたりのやりとりの中、火神様が追い出されてしまった窓の外をジッと見つめている。
和子「黒美さんも大丈夫? びっくりしたでしょう、ごめんね?」
和子の問いかけに我に返る。
黒美「いえ、私は……」
途中で言葉を切り、思い出したように険しい表情を和子へ向ける。
黒美「急に大きな悲鳴を上げるから、ビックリしました。自分の身を自分で守る術も持っていないんですか?」
和子「あ、それは……ごめんなさい」
黒美「そんなんじゃこれから先水神様のお荷物になるだけなんじゃないですか?」
いつも優しい黒美からの辛辣な言葉に和子は絶句する。
水神様「黒美さん、いったいどうしたんですか? あなたらしくない」
黒美「いいえ水神様。これが本来の私です。水神様は少し和子さんを甘やかしすぎなんじゃあありませんか?」
水神様「うっ。それは……」
黒美「とにかく、夜は静かに休憩させてくださいね」
黒美は和子に釘を刺して部屋を出たのだった。
☆☆☆
○水神様の邸宅の和子の部屋。
夜。
布団に入っている和子は落ち込んでいる。
和子(普段は優しい黒美さんがあんなに怒り出すなんて。きっと私が花嫁候補としてダメ過ぎて呆れられてしまったんだ)
涙が滲んでいる。
和子(私みたいになにもできない人間が神様の花嫁候補で、しかも黒美らんのライバル。そんなの嫌に決まってるわよね。このままじゃきっと水神様にだって呆れられてしまう……)
☆☆☆
○水神様の邸宅、和室。
翌日。
和子、黒美、水神様の3人で食事をしている。
水神様「火神様は昨日追い出したけれど、念の為にまだ警戒しておいてくださいね」
黒美「はい」
和子「はい……」
和子はまだ落ち込んでいて食欲がわかず、手つかずの料理をうつむき加減で見ている。
水神様「特に和子さん」
和子「は、はいっ」
慌てて顔を上げる。
水神様「火神様はどうやらあなたのことを気に入ったようです。昨日和子さんの部屋へ忍び込んだ様子から見ると、おそらくはね。だから十分に注意してください」
和子「はい。わかりました」
☆☆☆
○水神様の庭園
水神様の庭園を掃除している和子。
和子(水神様の足手まといにだけはなりたくない。黒美さんが言っていたように、自分の身くらい、自分で守れるようにならなくちゃ!)
持っていたホウキを逆さにして両手で握りしめる。
和子「えい! や!」
掛け声を共にホウキを振り回して敵を撃退する練習を始める和子。
和子「私ひとりでも大丈夫なんだから! えい!」
乱暴にホウキを振り回している和子を見て微笑む、人影が庭園の木の奥にあるが、和子はそれに気が付かないのだった。