泣きっ面に恋々!─泣き虫な身代わり花嫁と、泣き顔フェチな純真王子の恋々な結婚事情─
ふっと笑ったカルランは赤い翼を広げて空へ舞いあがってしまった。
「良いものを見せてもらった。これは餞別じゃステラ、我の寵愛をお主に」
強い風を受けてステラは目を瞑った。風が止んだ空を見上げれば、もうカルランの姿はなかった。ジオが立ち上がって辺りを見回すが、誰の気配もなかった。
「ジオ様、これが」
「なんだろ?黒い石?」
ステラのスカートの上には親指の爪ほどの大きさの丸くてツルツルした黒い石が残っていた。
「漆黒で丸くてカルラン様の、黒目みたいですね」
「たしかに、目みたいだからなんて言うか……」