泣きっ面に恋々!─泣き虫な身代わり花嫁と、泣き顔フェチな純真王子の恋々な結婚事情─


和平のための政略結婚なのに、異国の花嫁に真摯で優しく、人に囲まれて笑う非の打ち所がない彼。



(ジオ様はすごくみんなに愛されてる)



光の下で仲間と共にぎゃあぎゃあ楽しそうに笑う彼を、ステラは殺さなくてはいけない。


(私、そんな人を手にかけられる?)


目に涙が溜まったステラは善意の花束を抱き締めて、首から下げた小さな銀の筒の重みを感じていた。


(ジオ様ごめんなさい、ごめんなさい、本当にごめんなさい)


ステラは心の中でジオに百万回謝罪した。許されるものではないのはわかっている。身勝手なのも、承知だ。


(でも、私には他に選ぶ道がない)


母と二人きりで肩を寄せ合って生きてきた。心から愛して育ててくれた大事な母を守りたい。


『大事なものを守りたいなら、頑張らないと。ね?』


ユア王女の皮肉な声が耳で囁く。



(私、貴方を殺します)



ステラは細い指でぐいと涙を拭いた。
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