"愛してる"は蝶よりも花よりもずっと脆い。
(ちか)様、大丈夫ですか。目隠し取りますよ」

秘書さんによってゆっくり目隠しが取られ、少しづつ目が慣れてきて周りの状況が見えてきた。

「ここどこなんですか…?」

「バックヤードです。社長のところに一緒に帰りましょう」

「えぇ、そうですね。あのバカ社長を一発、いや2発くらいぶん殴ってやらないと気が済みませんし」

「な、なんで社長を殴るんですか…!」

「あの男、私を守るようなことを言っておいてこのザマですよ。一発くらい殴んないと胸くそ悪いんで」

(ちか)様って、意外と口悪いですよね。でも、いいですねそれ」

口が悪いだなんて、失礼しちゃうわ。

普段の私はすごく穏やかなのに、社長のせいで秘書さんに変なところを見られてしまったじゃない。

「さぁ、社長のスピーチまであと10分です。急いで戻りましょう!」

「そうね…。不本意だけど、戻るしかないわね」

秘書さんと共にバックヤードを抜け、大広間に向かって走る。

靴擦れしたりドレスの裾が邪魔になったりするけど、そんなことより今は戻ることが最優先だ。

「それでは(ちか)様、行ってらっしゃいませ」

「えぇ、行ってきます。秘書さんはこれからどうするの?」

「僕は先程の男共を始末してから、社長の元へ向かいます。今度は攫われないように気をつけてくださいね」

「分かってるわよ。助けてくれてありがとうね」

秘書さんにお礼を言って、私は大広間の中へと足を踏み入れた。

大広間はすごく賑わっていて、みんな私が攫われていたことなんか気づいてもいない。

それぞれがパーティを満喫し、社長のスピーチを今か今かと待ちわびている。

(ちか)! 無事だったか?」

「無事だったか?じゃないわよ。あんたのせいでなんで私が誘拐されなきゃいけないのよ」

「だからごめんって。おいで、そろそろスピーチの時間だ」

「おいでじゃないわよ。一発殴らせなさいよ」

「なんでだよ。そんな物騒なこと言わないで」

「私がどれだけ怖い思いしたと思ってんのよ。変なところに連れていかれて、目隠しまでされて…」

「ごめんね。パーティが終わったら、好きなもの奢ってあげるから」

「高級フレンチに連れてってください。それで、一番高いコース頼みますから」

「もちろんいいよ。好きなものを食べるといい」

「わーい♪」

美味しいものに目がない私は、あっという間に上機嫌になった。

ほんと単純だなぁ、私。
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