"愛してる"は蝶よりも花よりもずっと脆い。
「はぁ…どの料理も絶品だわ…」

「そうだろう。ここの料理はどれも美味くて、俺もよく来るんだ」

「へぇ、仕事帰りに美味しいものを食べると元気出ますよね。その日の疲れが吹っ飛ぶというか」

「俺も結構食べることは好きだから、ストレスが溜まったら美味しいものを好きなだけ食べることが多いな。おかげで、ちょっと太ったけど」

「社長そんなに太ってないじゃないですか。うちの部署の女の子たちも、社長細身でイケメンって騒いでましたよ」

「俺は(ちか)以外の人からの好意なんてどうでもいいよ。それと、その社長って呼び方やめない?」

「社長は社長じゃないですか。今更呼び方変えてって言われても、違和感しかないというか」

「社内では社長でもいいけど、2人きりの時は馨って呼んでほしい」

「でもほら、社長の方が年齢的にも立場的にもあれだしなぁ…って思って」

「そんなこと気にしなくていい。結婚しているのに社長とかって呼んでる方がおかしいぞ」

「じゃあ、(かおる)さんでどうでしょうか…」

「それなら問題ないな。なんなら今、練習してみてもいいぞ?」

「練習しなくてもきちんと呼べるので大丈夫です。もしかして、酔ってます?」

「失礼な、こう見えても酒には強いんだ。全然酔ってない」

「…お酒弱い人ってみんなそう言うんですよ」

酔っていないと言う割に顔は赤いし、どことなく上機嫌ぽいしこれは絶対酔ってるよね。

私はそんなにワインに手をつけてないし、この程度じゃまだまだ大丈夫。

実は馨さんより私の方がお酒強かったりして。

「せっかくなんだし、(ちか)もワイン飲んでね。遠慮しないで飲んでいいんだから」

「それじゃあ、有難くいただきます」

実を言うと、お酒には目がない私。

高級そうなワインだしと思って遠慮していたが、馨さんからのお許しも出たわけだし有難くいただこう。

お料理と一緒にワインを飲み、結構捗ってしまった。

そして、気がついた頃には馨さんよりもハイペースでワインを空けていて。

(ちか)、いい飲みっぷりだね。もっと酔わせたくなっちゃう」

「ダメですよ、私は酔わない女なので」

「その割には結構顔も赤いみたいだし、そろそろ家に帰ろうか?」

「ん…帰ります…」

あぁ、流石に飲みすぎてしまった。

足元がふわふわするし、頭もふわふわする。

私は訳も分からぬまま、馨さんと一緒に家へ帰った。
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