"愛してる"は蝶よりも花よりもずっと脆い。
「あら、こちらの方はどなた?」

「まだ秘密。もう少ししたら分かるよ」

「ふーん。あんまり馨と釣り合ってないけど、まさか奥さんとか?」

「そんなわけないじゃない! こんな子が奥さんだったら、私でもなれるわよ!」

「ほら、あっちでイケメンが君たちのこと見てるよ。早く行っておいで」

「はぁーい」

悪かったわね、ブスで。

彼女たちが身につけているものはすごく美しいのに、あぁいうことを言うから美しさが霞むわね。

キラキラした服とアクセサリーが勿体ないわ。

「どうした、黙り込んで」

「別に何もないわよ。社長はあぁいう子がお好きなんじゃないですか?」

「まさか。俺は彼女たちに一切好意がないし、鬱陶しいハエくらいにしか思ってないよ」

「ふふっ、ハエって」

(ちか)はそんな風に笑うんだな。柔らかい笑顔がとても可愛い」

「そんなこと言ったって、私はあなたになびかないわよ。そこら辺の女と一緒にしないでよね」

「一緒にしているつもりはないが。他のどの女より、(ちか)が一番輝いているよ」

「そういうセリフ、軽々しく言わない方が絶対いいよ。女慣れしてるって感じで嫌だから」

軽く揉めながら歩いていると、社長の秘書が何かを社長に耳打ちした。

何を話しているのかさっぱり分からないけど、私は私でちょっとパーティ会場の中を探検しようかな。

せっかく来たのに、ずっと社長の隣にいたら飽きちゃうし。

私に背を向け話に夢中になっている社長からこっそり離れ、まずは御手洗に向かう。

ずーっと御手洗したくて我慢してたんだよね。

個室に入ってふぅっと一息付いていると、何人かの女性が入ってきたのだろう、急に騒がしくなった。

「なぁ、お前如月社長の女見たか?」

「見たに決まってんだろ! あんな美女、どこで捕まえたんだあの人!」

「あー、マジで可愛いよな。めっちゃ綺麗だし!」

あれ?

聞こえてくる声は明らかに女性の声じゃなくて、男性の声。

しかも、私のこと話してるし。

ここって、本当に女子トイレだよね?

「俺、会場に戻ったらあの人のこと探してみる!」

「お前、如月社長に殺されるぞ笑」

「ちょっとくらいバレないって! お前だって、あの人とヤりたいだろ?」

「バカ、それを言うなって!」

いやいやいや、何を言ってんのこの人たち。

しばらくして彼らの足音が完全に聞こえなくなったのを見計らって、私はトイレから出て一目散に社長の元へ走った。
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