"愛してる"は蝶よりも花よりもずっと脆い。
山田 side

社長に(ちか)様探しを命じられてから、早30分。

館内を余すことなく探しているのに、どこにも(ちか)様の姿が見えない。

社長のスピーチまであと1時間、それまでに無事発見して連れ戻さなければならない。

いるという保証はないが、念の為バックヤードの方を探していると如月コーポレーションの社員証を首から下げている男に声を掛けられた。

「山田さん、こんなところで何をしているんですか?」

「君たちこそバックヤードに何の用ですか?」

「俺たちは新しいプロジェクトの為に、視察をしていたんですよ。初めてちゃんと任された仕事なので、絶対成功させたくて」

「そうだったんですね。僕はこのパーティに参加している社員の皆さんに部署と名前を聞いていたところなんですよ。名簿に登録されているかどうか確認して、社長に報告しなければいけないので」

「部署と名前ですか。社長も真面目な方なんですね」

「そうそう、それとですね。あなた方が担当している新プロジェクトについて聞かせてください。2人が頑張っていたこと、社長にお伝えしておきますよ」

僕の予想では、この2人が(ちか)様と何かしらの関係があると踏んでいる。

現在進行中のプロジェクトの進捗状況は全て把握しているし、新プロジェクトを立ち上げたなんて話は聞いていない。

恐らく、僕がそんなことまで把握しているとは知らずに適当なことを言ったのだろう。

「どうしたんですか? 言えないんですか?」

「実はですね、山田さん。俺たち聞いちゃったんすよ」

「何を聞いたのですか? あなた方が見たことを詳しく話してください」

「さっきトイレに行った時のことなんですけど、社長の連れを誘拐しようぜって相談している人がいて。それで、誘拐される前にあの女性に教えてあげようと思って探していたんですよ」

「なぜ、大広間ではなくこんなところを探しているんですか? 普通、大広間やロビーを探しますよね」

「こっちの方に連れて行かれるところを見たからですよ。男2人に抱えられて、連れて行かれてましたよ」

「その男たちの特徴は? 社内の人間でしたか?」

「社内の人間ではないと思います。ちらっとしか見えなかったので、特徴までは…」

この人たちが犯人だ。

僕の直感がそう言っている。

「お前たち、犯人だろ。しらばっくれるのはやめろ」

「山田さんには全てお見通しか。教えるわけないだろ」

「教えろと言ってるんだ。早くしろ!」

僕が怒鳴ると、彼らはビクッと身体を震わせゆっくりと歩き始めた。

どうか(ちか)様、ご無事で。

そう願わずにはいられなかった。
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