喫茶店の悪魔
「あの、ちょっと待って下さい。見てほしいんです。」
「…なにを」
「お礼にでもなったらいいなと思いまして。勝手なのですが、部屋を片付けました。」
金髪さんは、私の話を聞いてから、扉を全開に思い切り開けた。
―360度、数時間前とは別の部屋かのような綺麗な空間が広がっていた。
落ちていた紙は机の上に全てまとめた。そして瓶や缶やカップラーメンの容器を丁寧に分別してゴミ袋にまとめた。
家具のホコリや掃除機をしたりした。
すると、本当にピカピカになった。
足の踏み場もなかったのに、足の踏み場しかないし、しっかり家具が目立ってて綺麗なシンプルなひとり暮らしの男の人の部屋になった。
「…………俺って部屋間違えたかな」
「ここです、ここなんです。」
嬉しい言葉、言ってくれるな。
いつも自分の部屋を片付けてたから、掃除の方法とかコツはわかるのだ。
自分の部屋しか居場所がなかったので、綺麗を保つために掃除をしてきた自分は無駄じゃなかったと思えてどこか嬉しい。
まあ、この人は居場所があるんだろうけど。
「ありがと」
「…っえ?」
「ありがとう、澪」
金髪さんはえくぼをつけて優しく笑う。あの喫茶店で私が見た、綺麗な優しい、不思議な黒い目だった。
この目で、初めて見られた。
私は今、この目に見られてるんだ。