喫茶店の悪魔

それに私、名前呼ばれたんだ……名前……

中学時代から今だって、澪って男の人に呼ばれたのは家族以外で初めてだ。

な、なにこれ……

手が震えてる。この震えってなんなんだろ…


その時。頭に温かい何かが触れた。感じたことのない温もりが、頭に触れたのだ。


髪の毛並みに沿って優しく撫でられる。その黒い目から、逃れられなくなった。

あのカラオケ店での男の先輩が重なりそうになったけれど、あまりにもその優しい目と優しい撫で方の違いがありすぎて重ならない。


「な、何してるんですか?髪、触らないで下さい。」

「いやーごめん、触る。」


撫でられるなんか、死んじゃったお父さんとお母さん以外やられたことない。


でもなんだろう。

撫でられるのって、なんだか気持ちいい。


いやいや。何考えてんの私は?熱上がってきて頭がおかしくなってるのか。


「嬉しかったんだよ。熱あるのにしんどいのに、俺の部屋を片付けてくれたってことが」

「そう、ですか。」

「顔、赤い」

「…るさいですね。熱が上がってきたっぽいので。離してもらえますか」

「はは。離さないけど」


笑いながら「離さない」と告げた。なんだそれ、束縛彼氏みたいなのが本当に最悪。


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