Fortunate Link―ツキの守り手―
「……うぅ…」
とろとろとまどろみつつ、ゆっくり目蓋を開けた。
辺りが妙に眩しくて目がしょぼしょぼする。
暗く長いトンネルを抜けた後みたいな感じだ。
こういうのを何て云うんだっけな。……明順応?
意識が覚醒するまでの短い間、さっき見た夢のことを思い出す。
場所はどこかの家のようだったが、あそこがどこなのかは分からない。
しかもそのうえ、記憶にない父親まで出てきた。
(――ってちょっと待て。
俺に父親なんて居ない筈なんだが…)
俺は物心ついた時から今に至るまでずっと母さんと二人暮らしである。
そして今まで母さんの話にも、父の話がのぼることは一度も無かった。
母さんがそんな感じだったから、俺も自分の父親は最初から居なかったのか、もしくは早い段階で居なくなってしまったものだと勝手に思い込んでいた。
本当のところはどうなのか、母さんに聞けば一番手っ取り早いのだが、何となくそれは聞いてはいけないことだと幼心に感じていた。
子供というのは意外と親の醸し出す微妙な空気や雰囲気に敏感だったりする。そして俺もその例に漏れなかった。
(……しかもあの女の人は誰なんだ?)
銀糸のような髪と金色の瞳が印象的な女性。
船上で襲われ、意識をおとされかけた時にも、その人の姿を幻に見た。
こんなに間を空けずに同じ人が夢や幻影に出てくるなんて…何かを暗示しているのだろうか…?
それとも自分にはすっかり忘れている遠い記憶があって、それを取り戻しかけているのだろうか?
そこまで考えようとしたところで、ズキリとした痛みが頭蓋に走り、一気に意識が現実へと戻った。