Fortunate Link―ツキの守り手―
教室に悠々と入ってきた編入生は見慣れた顔の男だった。
それもそのはず。
そいつは先日、白石さんと映画デートした際に、映画公開を記念したイベントショーに出ていたあの男。
糞バズーカなるものをぶっ放し、イベントショー自体をめちゃくちゃにし、その後も色々めちゃくちゃやってくれたあの派手なオレンジ頭の関西弁の男だ。
印象深すぎて、忘れたくても忘れられそうにない。
その蛍光色の頭は教壇の前へとやってくると、
「ちょりーっす♪」
手を軽く挙げて、頭の悪そうなご挨拶。
こんなにも緊張感の無い編入生は非常にレアだと思う。
俺は未だ開いた口がふさがらない。
周囲も例外なくぽかんと前方の異様な編入生を注視している。
しかしそんな中でいち早く行動をとった人物がいた。
感情と反射神経が直結しているのか、凄まじい早さだった。
――ズガンッ
自己紹介を始めようとしたチャラ男の笑顔の横をペンが掠め過ぎ、背後の黒板に刺さった。
その殺気のもとを辿っていくと、アカツキが一人、席から立ち上がっていた。
「こらっ。月村。いきなり何てことをするんだ」
そう注意する先生の声は若干控えめ。
アカツキの鋭い視線に相当ビビッているようだ。
そんなやわな先生の叱責など痛くもかゆくも無いアカツキは横柄な態度を崩さない。
「…編入って、そいつちゃんと試験受けたのかよ?裏口なんじゃねぇの?」
言いたい放題に言う。
けれどその意見には俺も同感だ。
この状況は明らかに間違っている。何かの手違いだ。
そう自分で結論づけた俺はアカツキに倣って、シャー芯の殻を投げつけた。
筆記用具を痛めつけるまでも無い。ゴミで結構。
「こらっ!守谷も何をするんだ!」
俺に対しては強気で注意してくる先生。贔屓だろ。
「どうやらそいつ教室を間違っているようなので、それを指摘しようとしたまでです」
悪びれることなく、しれっと言ってやる。
「何を言ってるんだ。二人とも…」
苦々しく困惑する先生の傍で、
「あはははっはははっ」
出し抜けに腹を抱えて笑い出したのは、頭のイカれたそいつだった。