Fortunate Link―ツキの守り手―
うわー!うわー!!
心中で悲鳴を上げつつ逃げ惑う。
だってもう逃げるしかない。
素手で戦うとなれば接近戦に持ち込むしかないが、あの分銅と鎖と鎌の嵐の中をかいくぐって敵に近づくなんて無謀すぎる。
うねる鎖はまるで蛇のようで、分銅と鎌もまるで生き物のように宙を踊る。
敵はその全てを自由自在にコントロールしている。
傍から見れば一種の曲芸にも見えるかもしれない。
だが、こっちはのんびりそれらを見物している余裕など勿論無く、ひたすら逃げの一手。
容赦なくしつこくそれらは俺のほう目掛けて襲いくる。
紙一重で鎌をよけた後、視界の左端から黒い影。
後方へと飛び退る。
ブンッッ…
その顔すれすれに分銅が横切っていく。うひゃー!!
と、今度は真っ向から鋭い刃が…。
目で追いきれないほどの速度で鎌が迫る。
とっさに頭を下げた。
その頭上を風が通過していく。
髪の毛も何本か持っていかれた。
――ズゴォォォッッ
腹に響くほどの凄まじい破砕音。
鎌が背後の給水塔を突き破ったらしい。
あまりの出来事に、全身の血の気が音を立てて引いていく。
何つぅ馬鹿力だ。
こんな所で俺を倒すためだけに発揮しないで欲しい。
グランドピアノを持ち上げるとか、コンテナを自力で牽引するとか――ぜひとももっと社会の役に立つことに使って頂きたい。お願いですから。
ぶしゅぅぅ…と水蒸気みたいな煙が給水塔の開いた穴から噴き出している。
「おいおい。公共物を…」
平然と壊しやがったよ。
場所をわきまえるとか出来ないのか。
ここは学びの場だ。
こんな場所でドンパチやるのは少年漫画だけだと思ってたよ。
「シュン!!」
アカツキの切羽詰った叫び声が聞こえる。
そちらに目をやるとアカツキが俺の方に駆け寄ろうとしていた。
「こっち来んなッ!!アカツキ!!」
馬鹿でかい声を張り上げて、無理やり制止させた。
アカツキを巻き込んでは元も子もない。
給水塔のほうから流れる湿った風を背に浴びつつ、俺は体勢を整え、敵を見据えた。