Fortunate Link―ツキの守り手―


俺は慌てて塀の傍まで駆け寄り下を見下ろした。

「……あれ?」

しかしそこには遠い地面が見えるばかりで誰の姿もなかった。

どういうこった?!
敵はどこへ消えた?

しばらくはそのまま下を見下ろしていたが、ただ時間ばかりが過ぎるだけで何も変化は訪れなかった。

深々と息を吐く。
取り敢えずは…目下の危険は去ったようだし、疑問は置き去りにしたまま諦める。


踵を返して後ろを見ると、目に入ってきたのはこちらを見つめたままの…

「……アカツキ」

呼びかける。


「………」

無言のままこちらを睨んでいる。

…おや?
何やらいつもと様子が違うような。

何て言うかな…
普段の睨みの利かせ方じゃないっていうか…。

こちらを震いあがらせるほどの威圧感が感じられない。


「どうした?」

近づき、彼女の様子をつぶさに見てみる。

「…あいつに何かやられたか?」

思えば俺が居ない間に、あの相手との間で何かあったのかもしれない。

「………」

それでもアカツキは何も答えないし動かないまま。

ってあれ?
体が小刻みに震えているような?

「おいっ」

異変を感じた俺は思わず手を伸ばそうと――した時、

ひゅんと左から影が掠めた。
気づいた時にはもう遅かった。

完全なる不意打ち。
神速の右ストレートが決まっていた。

頬にめり込み、その衝撃は全身へと伝わり…横へと吹っ飛ばされていた。

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