Fortunate Link―ツキの守り手―

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水波雅(ミツハミヤビ)は落下する際、鎖を振るい鎌を縁に引っ掛けていた。
命綱のように鎖にぶら下がりつつ、手近な開いてる窓から校舎内へと侵入する。

どこかの部の部室のような教室の中へと入り、一息つく。

そこへ、

「よぉ」

雑然とした室内に不釣り合いなほど大きなソファー。
そこにふんぞり返って座り、こっちを見て軽く手を上げる男。

オレンジ色の派手な髪に常に笑みを湛えた緩みっぱなしの顔。

――瀬川蓮(セガワ レン)

それがその男の名前だ。


「編入初日からいきなり仕掛けるとは、せっかちな人やなぁ」


そのへらへらとした笑いが癇に障る。
こっちを完全に見下しているような…。

しかし見た目で侮(あなど)る無かれ。
そのいかにもチャラ男風情の男が自分を大きく上回る力を持つことを、彼女は知っていた。

同じ催眠術を扱うにしても、自分が言語暗示法を用いるのに対して、この男は凝視法を用いる。

こっちは催眠に誘うまで時間を要してしまうが、この瀬川という男はじかに相手の深層心理に働きかけることが出来る。

戦闘能力もまた然り。
自分とこの男との力の差は歴然としていた。


「それで…、あんたから見て、守り手はどんな具合なんや?」

蓮はタバコを咥え、ジッポーで火をつけながら問うた。


雅はふっと微笑んだ。


「さすがは”あの人”の子供だけあるという感じね。
――本当の目覚めが早く待ち遠しいわ」


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