Fortunate Link―ツキの守り手―
「……何っ?」
瀬川は周りを見渡し、驚嘆の声を上げた。
奴の目にはどこにも俺が”居ない”ように見えていたのだろう。
しかし、その実、すぐ足元に俺は迫っていた。
「――シュン!!」
さっきの合図を理解してくれたアカツキは、その足元に転がっていた木刀を思いっきり蹴飛ばしてくれた。
飛ばされた木刀は真っ直ぐに床を滑っていく。
敵目前の俺のもとへと。
俺は足元に滑ってきた木刀を掴み、膝のバネを利用して急浮上した。
まるで潜水艦のように。
それに気づいた瀬川の表情が強張った。
とっさに持っていたクナイを振るう。
一方、俺は全身の伸縮を使って拾った木刀を振るう。
目に捉えきれないほどのその一瞬で勝負は決した。
二つの軌跡が交錯…したかのように見えたかもしれない。
が、わずかに俺のそれの方が早かった。
電光石火のごとき横凪ぎが一閃。
相手の右胴に炸裂した。
「……うぐっ」
その一撃を食らった瀬川は目を剥いて呻いた。
薙ぎ払われた体は紙屑みたいに軽く吹っ飛ぶ。
背後の衝立を薙ぎ倒し、机の側面にしたたかにぶつけてやっと止まった。
俺は大きく息を吐いて、瀬川の方を見下ろした。
奴は気絶したのか沈黙したまま起き上がる気配は全く無い。
後には舞台の幕が下がった後のような静寂だけが残った。