Fortunate Link―ツキの守り手―

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家の中で、よく赤子の泣き声が響き渡るようになっていた。

私は邸宅の外でその声を聞いていた。

まだ顔も見たことがない。

何となく近寄りがたい存在に思えて、近づけなかった。

人と接すること自体が苦手なのに、接したことのない赤子など、私にとっては得体が知れなさすぎだ。

そんなふうに過ごしていたある日、外にいた私を、蘇芳様が呼び止めた。

「冴月、こっちにおいで」

主の命令とあれば逆らえず、私は渋々、縁側に立つ蘇芳様に近づいた。

その腕は小さな体を抱いていた。

「ほら。見てごらん。可愛いだろう」

私は恐る恐る顔を覗いた。
無垢であどけない顔がこちらを向いていた。
綺麗な目はしっかりと私を見ていた。

「抱っこしてみないか?」

「いえ。いいです」

私は断った。
きっと泣いてしまうだろうと思った。
今までこの手で沢山の人間を傷つけてきたから、こんな汚れきった手で無垢な赤子を抱けないと思った。

「大丈夫だよ。ほら」

しかし、蘇芳様は私に赤子を差し出した。
私は恐る恐る赤子を受けとり、慣れない手付きでゆっくり抱いた。

首の座ってない赤子は腕の中でなかなか安定しなかった。
それでも赤子は泣かなかった。
それどころか、私に向かって小さな手を伸ばし、声を出して笑った。

「名前は俊(しゅん)と付けたんだ。
格好いい名前だろ?」

「……俊」

呟きながら、赤子の重さと温かさを感じた。
小さくか弱い存在。
けれど、どうしてか、その存在にとても心惹かれている自分がいた。

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