Fortunate Link―ツキの守り手―

火はみるみるうちに屋敷を飲み込みつつあった。
私はどうすることもできず、そこから離れ、庭に出た。

呆然と立ち尽くし、燃え上がる屋敷を見つめていた。

その時、

「……冴月」

微かな声が響き、私は驚いて辺りを見回した。
庭の木の茂みに、人影があった。

「蘇芳様!!」

ほっとした思いで名前を叫び、走り寄った。

「ご無事で…」

「冴月」

蘇芳様はその手に抱いている俊を、私に差し出してきた。
俊はすやすやと穏やかな寝息を立てて、眠っていた。

「俊を頼む」

そう言われ、ほぼ押し付けられる形で、俊を受け取った。

「…蘇芳様。
そんなことより早くここから逃げ…」

言いかけて、はっと息を飲んだ。
抱かれていた俊に隠れて見えなかったが、その腹部には刀が刺さって、血で真っ赤に染まっていた。

「蘇芳様っ!!」

血は見慣れているはずなのに、その時の私は気が動転してどうかしてしまいそうだった。

「私はいいから。俊を連れて、ここから逃げてくれ」

「そんな……」

私は子供のように首を振った。

「できません!!」

「冴月…」

蘇芳様は突き刺さっている刀の柄に手をかけた。
渾身の力を使って、それを体から引き抜いた。

「がはっ」

「蘇芳様!!」

蘇芳様は血を吐き、その場に倒れこんだ。
私はその体を支えたかったが、俊を抱いていたので出来なかった。

「冴月。聞いてくれ。
これが私からの最後の命令だ」

震える手で引き抜いた刀を私の方へと差し出した。
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