Fortunate Link―ツキの守り手―


鋭く前方に目を凝らす。


今、何かを感じ取った。

進行方向の、まだ見ぬその先から。


(……やばい)

何かが激しく警鐘を鳴らす。

焦燥が胸の中でざわつきだす。


「アカツキ」

「……どうした?」

声を掛けると、ようやくアカツキも立ち止まり怪訝そうに訊いてきた。

「…逃げるぞ」

有無を言わさず、その手をひったくるように掴み、走り出す。


その荒っぽい動作に「こら」とか「何すんだ」とかの抗議の声が聞こえたけど全て無視。


……逃げなければ。

この先に危険な気配が潜んでいる。

アカツキを引っ張りながらぐんぐんと逆走する。

(……何だってこんな時に。くそ)

心の内でいくら毒づいても状況は変わらない。

それどころか危機はもうすぐ傍から迫りつつある…。


背後から闇を切り裂く音がした。

とっさにアカツキの体を脇の塀の方へと押しやる。


そのほぼ同時に。

ザシュッという擦過音。

背中を掠める熱さ。

鼓膜を震わせる耳障りな鎖の擦れ合う音。

一瞬にして襲ってきたそれらは、一瞬にして過ぎ去る。


「……ちっ」

舌打ちしつつ、体勢を整えながら振り返り、襲ってきた方向に向き合う。

その先。闇に慣れてきた目が敵の陰影を捉えた。

同時に判断する。

やっぱり二人で逃げるのは無理そうだ、と。


ならば……、

「アカツキ、逃げろ」

俺が相手を食い止めて、アカツキを逃がす。

「……なっ」

アカツキの戸惑いを肌で感じる。

でも迷ってる暇なんて無い。

「はやく行けっ!」

無理やりその背を押し出し、俺は反対側へと飛び出した。

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