Fortunate Link―ツキの守り手―


何一つ遮るものの無い道路の上。

そのど真ん中へ、自らをさらけ出すように敵の前へと踊り出る。

死角などどこにもない。

どうせ隠れる場所が無いなら真正面から挑むまでだ。

格好の的になったこちらへ、鎖が飛んでくる。


(……またか)


以前と同じ武器。

こんな古臭い得物を操る人間といえば一人しか思い当たらない。

おそらく以前、学校の屋上で襲ってきた敵と、同じ敵に違いない。

(水波雅(ミツハミヤビ)……)

白石さんの姉と名乗る、あの編入生だ。



攻撃のパターンはほぼ分かっている。

うねり、宙を踊る鎖。

その鎖の舞う中を、体をひねり、跳びすさり、かいくぐる。

逃げて逃げてひたすら逃げまくる。

だけどこの場では地の利は相手の方にある。逃げ続けるだけではいずれ捕まる。

わずかに攻撃が止んだ間隙を見つけては、踏み込み、指に挟んだ棒手裏剣を打つ。

幸いにも以前のことを反省して以来、どうにか相手をしのぐぐらいの暗器はいつでも持ち歩いていた。


真っ直ぐに飛ばしたそれらは敵に向かって微妙に曲がって飛翔。

その弧を描く軌跡から逃れるように、敵は退く。

戻る鎖に代わって、今度は街灯の光を宿す銀が閃く。

横合いから飛んできた鎌の、その輝く軌跡をスウェーバックして避ける。


攻撃に当たらなければいい。

こちらから戦闘を仕掛けるつもりなんてさらさらない。

目的は時間稼ぎ。

アカツキを逃がす間だけ引き付けていればいい。

その後は相手の隙をついて自分も逃げる。

……そう考えていたのに。

背後から近づく影を視界の端に捉えた。


目をそちらへと転じ、愕然とする。

「アカツキ!」

先に行ったと思っていた筈の姿がそこにあった。

(馬鹿っ!何こっちに来てんだ!)

せっかく稼いだ時間も水の泡。

アカツキは逃げるどころかこちらへ戻ってきていた。


走り寄り、俺に向かって、

「逃げるなんて出来るわけないだろ!」

悲痛なまでのアカツキの叫びが耳に届いた。
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