Fortunate Link―ツキの守り手―

その声に胸を突かれたように体が硬直した。

アカツキの真摯な目を見て…。
その瞬間、思い出して、しまった。

それは幼き日のこと。
俺を置いて、俺を守ろうとしてくれたある人のことを。

そして、その人に対して俺が言った言葉も…。

『――僕、足手まといにならないよう強くなるから。だから、置いてかないで…』



しかし、完全にアカツキのほうに注意を奪われたが一瞬……。

後ろから迫る鎖の音に我に返る。


(……やばい)

敵は攻撃をアカツキの方へと転じていた。

そういえばそういう姑息な手も使う敵だった、と頭の片隅で思い出す。

攻撃の目的はアカツキじゃない。

俺がアカツキを庇うと分かっていて…。


「くっ…」

歯噛みする。


たとえ敵のその狙いが分かっていても…。

逃げるわけにはいかない。

そんな選択肢など、はなっから無い。


迷わずアカツキの前へと飛び出す。

蛇のように曲がりくねり獰猛に近づく鎖鎌が目に入った。

迫りくるその刃を防ぐすべなど無い。


それでも。

避けはしない。

避けたらアカツキに当たってしまう。

だったら…、

この身で攻撃を受け止めるまで。

当たり前のように、心は決まっていた。


前方を見据えたまま動かない。

逃げずに立ちはだかる。

敵の思惑通りに。


せめて急所だけは守ろうと体の前で腕を交差させる。

唸りと風をともなって迫る刃は、獣の顎(アギト)を思わせるような鋭さがあった。


(どうしてだろ。怖くはない…)


やけにゆっくりと時間は流れ、自分を襲うそれを冷静に見ていた。

その破壊的で殺傷的な凄まじい勢いを見つめながら、不思議と少しも恐怖は感じなかった。

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