Fortunate Link―ツキの守り手―


「…日暮…夕月?」

今は一筋だけ金のメッシュが入った黒髪の女の子の姿なので、そう呼ぶのが適当だろうか。

あの銀髪の冴月さんの時のような凜とした雰囲気はまったくない。

夕月さんはちらっとこちらを見て、にこりと笑った。

「ふざけた格好をしているな、冴月」

その声に彼女は前方に視線を戻した。

「その言葉、そっくりそのままあなたにお返ししますよ」

夕月さんは意味深げに笑う。
話し方から察するに、この二人、知り合いなのだろうか…。

「どうしてあなたが白石星羅の姉の姿をしているのですか?紅羽(クレハ)」

夕月さんは聞き慣れない名前で、相手のことを呼んだ。

(……クレハ…?)

しかし、街灯にぼんやり浮かび上がるその姿は…。
どこをどう見ても、艶やかな長い黒髪のあの白石さんそっくりの編入生、水波雅に違いなかった。

(いや…でも、白石さんも言ってたっけ…)

『彼女は私の姉じゃないわ』

水波雅自身は白石さんの双子の姉と言っていたが、当の白石さんはそれを否定した。

(つまり白石さんの言っていた言葉は本当だということだろうか…)

「……ふん」

しかし相手はその言葉を鼻であしらった。

「私の行動の理由をお前に話すつもりなどない」

そしてお喋りは終わり、と言わんばかりに動き出す。

鎖を引っ張ったのか、ジャリ…とわずかに擦れる音が鳴った。

その引っ張られた鎖に引き摺られるように刀身が傾いた。

膠着を保っていた均衡が崩れる。

体勢を崩されながらも…、

「いい加減目を覚ましてください、紅羽さん」

けれど前方をふさぐ夕月さんは言った。

「あなたを狂わせているものははっきり分かっているはずです」

構えたままの刀の、その刀身に絡みつく鎖がギシギシと音を立てる。

相手は沈黙、そして低い声で答えた。

「お前には関係ない。ここで死ね!」

言うやいなや、グイッと鎖を思いきり引っ張った。
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