Fortunate Link―ツキの守り手―

刀身が引かれ、夕月さんの上体が前傾していく。

――しかし。

「死なないよ」

その前傾姿勢のまま、むしろその体勢を生かして、彼女は前へと駆け出した。


ブン、と。

鎖に絡め取られていた刀を上方へと投げ上げる。


「……なっ」

引いていた鎖が急に緩まり、敵は後ろへとよろめく。

武器を捨て去る、なんていう完全に予想外の行動をとられたせいか敵の反応は遅かった。


一方、こちらは前方へと、放たれた矢のような速さで疾駆。

駆けながらもう一振りの短刀を腰から抜き出していた。

瞬時にそれを構え…。

相手の懐へと飛び込む。


ようやっとそれを察知した敵は、慌てて鎖を持ち替える。

その両端をピンと張り、棒を横にしたように突き出す。

どうにか斬撃を防ごうと――。


しかし、すぐそこまで迫った刃は、その真上で高々と振りかぶられる。

瞬きの間もなく、閃光のように直下に降ろされる。

ザンッッッ。

振り抜かれた、その清清しいまでの音が響き渡る。

敵は唖然と石にされたように動かない。

鎖はあっさりと断ち切られていた。


相手の武器を不能にした彼女はしばしその姿勢のまま佇み。

左手だけを後ろへ。

そこへ計ったように先ほど放り投げた刀が落下し、鮮やかに柄を掴んでみせる。


「…………」

その後ろ側から俺はあんぐりとしつつ、その始終を見つめていた。


――それは時間にして数秒ほどのあまりに短い間の出来事。

あっという間に、そして呆気なく勝敗は決してしまった。

「紅羽」

夕月さんは、未だ動かない相手に、

「……本気での戦いはまた後日としませんか?」

短刀と小太刀を構えたまま訊ねた。

「ふっ。そうだな」

水波雅はなぜか俺のほうに一瞬目を向けた。

それからバッと身を翻すと、ダンッと地を蹴り、高く跳躍する。

次の瞬間にはその姿は道脇の壁の向こうへ消えていた。

< 299 / 573 >

この作品をシェア

pagetop