Fortunate Link―ツキの守り手―
彼女はじっと俺の顔を見つめてきた。
「母さんが家を空ける直前ぐらいから日暮夕月という人間が俺達の前に現れ始めた。
なんで幾つも姿を変えているのか分かんないけどさ。母さんなんだろ?」
「……俊」
母さんの口調で俺の名を呟いた。
「……でも。
私が本当の母親じゃない、てもう知っているんでしょう」
「確かに、瀬川がそんなことを言ってたよ。母さんは育ての親であって、産みの親じゃないって。
だけど、たとえそうであったとしても…」
俺は真っ直ぐに彼女の目を見た。
「俺をここまで育ててくれたのは母さんだ。俺の母さんはあなたしかいない」
「………」
彼女は何も言わずに俺の方をじっと見ていた。
「細かい事情を訊くつもりはないんだ。
でもただ一つだけ訊いておきたいことがある」
俺は一息つき、
「母さんはどうして俺の『母親』になろうと思ったんだ?」
「………」
彼女はしばらく黙っていた。
俺は緊張しながらその答えを待った。
「……っ」
彼女はやがてクスッと微かに笑った。
「そうねぇ…」
遠くに視線を巡らせ、何かを思い出しているようだった。
「小さかったあなたがどうしても私の手を握って離さなかったからよ」